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は じ め に
本邦の高齢者人口は3,617万人(28%)を超え,運動器疾患に罹患する高齢者も増加している.高齢者の運動器疾患の代表は変形性脊椎症,変形性関節症,骨粗鬆症で,それぞれ1,000万人以上が罹患している.健康寿命延伸が国家プロジェクトとして提唱されるなか,運動器疾患は要介護要因の上位を占め,運動器疾患の早期診断,治療は国民の日常生活動作(ADL)や生活の質(QOL)を維持,向上させ健康寿命延伸をはたすことで介護費や医療費削減にも寄与する.このような運動器疾患を克服するうえで,一般住民検診に基づく運動機能や健康状態の把握とその改善策の立案はきわめて重要であり,リアルワールドデータに基づくデータベース構築を可能にするため,名古屋大学では北海道二海郡八雲町(図1)での住民検診(Yakumoスタディ)を行ってきた.Yakumoスタディは1981年に名古屋大学青木國夫名誉教授により開始され,2020年で39年間継続している長期検診コホートであり,毎年8月に約1,000名の一般住民検診を行っている.
名古屋市と八雲町は歴史上深い関係にあり,その友好関係に基づき本研究が開始された.1878(明治11)年,明治維新により失職し,生活に苦しんでいた旧尾張17代目当主の徳川慶勝が旧家臣たちをユーラップ(現八雲町)に集団移住させ,本格的な開拓をすすめたことが名古屋と八雲町の友好の始まりである1).尾張藩は開拓使から150万坪の土地を無償で払い下げてもらうかわりに,移住者の生活や開拓費用を徳川家が負担するという,民間資本による組織的北海道開拓を行った歴史がある.19代目の徳川義親は頻繁に八雲を訪れ,酪農への転換や土地改良なども積極的に行ったとされている.このような歴史的背景から,名古屋市と八雲町では深い関係が構築されており,名古屋大学もこの友好関係に基づき住民検診を継続してきた.本稿では,Yakumoスタディでわれわれが行ってきた研究を中心に,住民検診で可能となった運動器疾患に関する疫学研究の実情を説明する.
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