書評
呼吸器細胞診アトラス―新たな国際判定基準運用の実際
伊豫田 明
1
1東邦大学呼吸器外科
pp.1056
発行日 2024年11月1日
Published Date 2024/11/1
DOI https://doi.org/10.15106/j_kyobu77_1056
- 販売していません
- 文献概要
私が外科レジデントから呼吸器外科医になることを選択し,最初に入会した学会の一つが日本臨床細胞学会であった.呼吸器外科と本学会との関係が実はたいへん重要であることを,会員になってはじめて知ることとなる.呼吸器外科の主たる対象疾患は肺癌であるが,肺癌の確定診断はむずかしい.以前と比べて喫煙が原因の中枢型扁平上皮癌がほとんどみられなくなった現在では,気管支鏡で直接観察下に行う生検が可能な病変自体が減少している.一方で,気管支鏡が細径となり画質も格段に進歩しても肺末梢の病変では,狭い部分で比較的生検が容易なキュレット,針,ブラシを用いた細胞診標本に診断を委ねる症例が多い.消化器系のような管腔臓器でポリペクトミーも可能な領域とは異なる,呼吸器ならではの悩みである.呼吸器外科医の私がなぜ細胞診に関する本書の書評を書くのか疑問に思った方がいるかもしれないが,たとえば細胞診で異型細胞といわれたときに,それが癌を示唆するものか炎症によるものか,患者の状態や臨床データを熟知した臨床医がどのように判断するかによって,その後は経過観察でよしとするのか,もしくはさらに再生検に挑むかによって患者の運命は決まり,それは臨床医の判断に委ねられる.そういった意味で細胞診は呼吸器外科医にとってこれまで身近なものであったし,これからもそうあるべきと考えている.
© Nankodo Co., Ltd., 2024