胸部外科医の散歩道
『徒然草』を後ろから読む
福田 幾夫
1
1吹田徳洲会病院心臓血管センター/弘前大学
pp.538
発行日 2021年7月1日
Published Date 2021/7/1
DOI https://doi.org/10.15106/j_kyobu74_538
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- 文献概要
『枕草子』,『方丈記』,『徒然草』は日本三大古典随筆として,多くの人たちがその序文を知っている.序文はその作品を読む気にさせるために重要で,医学論文でもタイトルと序文を読めばその論文の質を推測できる.日本の国語教育は,イントロ当てクイズみたいな面があり,有名な本を出だしだけ覚えさせて,深く読ませることを怠っていると思う.前任地の入試個人面接で,ある受験生が「古文が得意で『方丈記』が好きです」と言うので,「どんな内容ですか?」と尋ねてみた.「待ってました!」とばかりに,「ゆく川の流れは絶えずしてしかももとの水にあらず.よどみに浮かぶうたかたは……云々」という一節を諳んじてみせる.「それでその先は?」と訊くと「うっ」とつまってしまう.意地のわるい面接官に当たったものである.『方丈記』は源平の争乱期の京の都で起こった飢饉,異常気象災害,地震などたいへん興味深い内容が記録されているが,そこまで読みこんでいる学生は少ない.
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