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はじめに
がん薬物療法の領域で抗体薬が実用化されて約30年が経過した.日本で最初に承認されたのは乳がんに対するトラスツズマブで,次にB細胞性非ホジキンリンパ腫に対するリツキシマブであった.これらの薬剤は,体内で異物を排除する抗体の働き(抗原抗体反応)を利用したもので,がん細胞の表面に出現している特定の分子(タンパク質)に対する抗体を人工的に作製したものである.抗体薬は,標的分子をピンポイントで攻撃でき,標的分子をもたない正常細胞への影響は少ないなどの利点があり,大きな成果をもたらしている.
さらに研究と創薬の技術が進み,2008年ごろにはがん細胞を攻撃する抗体に殺細胞性抗がん薬を結合させた抗体薬物複合体(antibody-drug conjugate:ADC)が開発された.ADCは抗体と,抗がん薬(ペイロード),リンカー(繋げる)で構成されている.ADCががん細胞の標的分子に結合すると,インターナリゼーションによって細胞内に取りこまれたあと,代謝酵素によってリンカーが切断され,フリーになったペイロードが細胞を殺傷する.抗体はがん細胞表面の分子に特異的に結合するため,全身投与に比べ少量の抗がん薬で効率よくがん細胞を殺傷する利点があるが,使用している抗がん薬による副作用は確実に出現する1).
そして,今回紹介する二重特異性抗体(bispecific antibody:BsAb)も抗体薬の一つで,同時に2つの異なる標的分子に結合するように設計された次世代の抗体薬である.BsAbはT細胞などの免疫細胞と腫瘍細胞に結合するものや,シグナル伝達にかかわる2つの分子を同時にブロックするように作られたものなどがある.前者のT細胞と腫瘍細胞に結合し,免疫システムを活性化させることによってがん細胞を破壊するものは,T細胞が活性化することによって起こるサイトカイン放出症候群(cytokine release syndrome:CRS)や免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(immune effector cell-associated neurotoxicity syndrome:ICANS)などの有害事象が出現するため,十分な準備と対応が必要になる.そこで,本稿ではBsAbの種類と特徴,有害事象への対応について述べ,実際に施設で行っている有害事象への対策も紹介する.

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