- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
どんな薬?
悪性リンパ腫は,造血器腫瘍のなかでもっとも罹患率が高い疾患で,1年間に約36,000名が新たに診断されています.悪性リンパ腫はリンパ球ががん化したものの総称で,現在は組織分類に基づいてホジキンリンパ腫,非ホジキンリンパ腫に区別されています.リンパ球には,B細胞,T細胞,NK細胞などの種類がありこれらの細胞ががん化するため,病態や進行度,悪性度も異なっています.
ポラツズマブ ベドチンの適応であるびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(diffuse large B-cell lymphoma, not otherwise specified:DLBCL)は非ホジキンリンパ腫の一つで,日本ではもっとも頻度が高い病型です.薬物療法や放射線療法に感受性が高く,治癒を目指すこともできるのですが,一部に治療が奏功しない予後不良例もあります.多くのB細胞性リンパ腫患者が待ち望んでいたリツキシマブが2001年に承認され,既存のCHOP(シクロホスファミド,ドキソルビシン,ビンクリスチン,プレドニゾロン)療法に上乗せしたR-CHOP療法が標準的治療となりました.しかし,一部にはR-CHOP療法に不応あるいは再発の症例があり,これらに対して予後改善にいたる治療法がなかったため,CD20を標的とした新薬や異なる標的分子に対する治療薬の開発が進んでいましたが,いずれも明確な優越性を示しませんでした.そこで,注目されたのがCD79bタンパク質を標的とし,微小管重合阻害作用を有するモノメチルアウリスタチンE (monomethyl auristatin E:MMAE)を結合させた抗体薬物複合体(antibody-drug conjugate:ADC)のポラツズマブ ベドチンでした.ポラツズマブ ベドチンは単剤投与で用いるのではなく,既存の治療方法と組み合わせることで,それまでの標準治療であるR-CHOP療法またはBR(ベンダムスチン塩酸塩,リツキシマブ)療法に対する優越性が示されました.
ポラツズマブ ベドチンの標的分子であるCD79bは,B細胞の抗原受容体(B cell antigen receptor:BCR)のシグナル伝達を担うタンパク質で,BCRの発現および機能調節の役割をもっています.大部分のB細胞で特異的に発現しており,pre-B細胞期に細胞表面に出現し,形質細胞期に入る前に消失します.DLBCLでは90%出現しているといわれています.ポラツズマブ ベドチンはCD79bに結合するように創薬されています.さらに,ドラッグデリバリーを目的として抗体に殺細胞性抗腫瘍薬を結合させているため,全身投与する薬剤に比べて薬の分布を制御し,薬効を高め,副作用を減らすことができます.

© Nankodo Co., Ltd., 2025