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どんな薬?
尿路(腎盂,尿管,膀胱,尿道)の内側は尿路上皮という粘膜でおおわれており,この粘膜から発生するがんを尿路上皮がんといいます.尿路上皮がんの約90%が膀胱がんで,筋層非浸潤がんが7割,筋層浸潤がんが約3割です.膀胱がんは早期(限局期)診断の場合5年相対生存率が約90%ですが,進行期では約5%と低いです.膀胱がんの治療は経尿道的膀胱腫瘍切除術,手術療法,膀胱内注入療法,放射線療法,薬物療法などがあり,集学的治療を行うこともあります.筋層浸潤性がんの場合は膀胱全摘術を行いますが,がんの進行度に応じて術前あるいは術後補助化学療法を行うことがあります.筋層浸潤性がんや切除不能あるいは転移・再発膀胱がんに対しては薬物療法が適応で,一次治療としてシスプラチンをベースとした多剤併用化学療法を行います.代表的な薬物療法として14日間で1コース行うddMVAC療法(メトトレキサート,ビンブラスチン,ドキソルビシン,シスプラチン)や28日間で1コース行うGC療法(ゲムシタビン,シスプラチン)があります.いずれも高度の悪心・嘔吐や汎血球減少に伴う感染症,末梢神経障害,腎機能障害などの副作用が強く出現するものです.このほかにシスプラチンベース薬物療法後の維持療法として免疫チェックポイント阻害薬が承認されています.膀胱がんは再発率が高く,筋層浸潤性がんで膀胱全摘をした症例でも術後2〜3年以内に再発することが多いため,二次薬物療法の開発が望まれていました.そこで開発されたのがエンホルツマブ ベドチンです.
エンホルツマブ ベドチンは,尿路上皮がんの細胞表面に存在する接着タンパク(細胞と細胞同士,細胞と基質との接着に関与する分子の総称)であるNectin-4に対するヒト型IgG1モノクローナル抗体と,微小管重合阻害作用を有するモノメチルアウリスタチンE (monomethyl auristatin E:MMAE)を,共有結合させた抗体薬物複合体(antibody-drug conjugate:ADC)です.標的であるNectin-4は腫瘍の増殖,分化,生存に関連しており,尿路上皮がんや胃がん,トリプルネガティブ乳がん,肺がん,食道がん,膵臓がん,卵巣がんなどで過剰発現されていることがわかっています.しかし,正常皮膚表面(皮膚ケラチノサイト,汗腺,毛包など)にも発現しているため,高頻度で皮膚反応が゙出現します.そのほか,MMAEに関連した末梢性ニューロパチーや,高血糖,肝機能障害,間質性肺障害,ドライアイなどの副作用症状も報告されているため,治療中のモニタリングが重要です.エンホルツマブ ベドチンは単剤あるいはペムブロリズマブとの併用療法が承認されています.
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