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便秘に対する看護支援の概説
便秘は,さまざまな学会のガイドラインで定義されているが,日本緩和医療学会(2017年)では,「腸管内容物の通過が遅延,停滞し,排便に困難を伴う状態」と定義している1).また,過敏性腸症候群の国際的な診断基準であるRomeⅣでは,オピオイド誘発性便秘症(opioid-induced constipation:OIC)が定義され,広く用いられるようになった(表1)2).便秘は,進行がん患者の多くが経験する不快な症状で,OICの有病率は40~60%と報告がある3).
European Society for Medical Oncology (ESMO)の便秘の診断,評価および管理のガイドラインでは,がん患者を対象とした非薬物的療法による研究は同定されなかった3).そして,ESMOの結果を補完するようにMultinational Association for Supportive Care in Cancer (MASCC)においても,がん患者の便秘の管理に関するガイドラインでは4),便秘の管理には,薬物療法を推奨しており,エビデンスレベルの高い非薬物療法の記載はなかった.さらに,Oncology Nursing Society (ONS)は,オピオイド誘発性便秘および非オピオイド誘発性便秘の管理に関するガイドラインを報告しており5,6),こちらも薬物療法が多く含まれているが,それだけでなくライフスタイルの教育を推奨している.便秘の管理には,薬物療法が基本であるが,看護師は患者の排便状況をアセスメントし,便秘を改善することや,便秘のリスクを回避することが求められる.
しかしながら,便秘の管理に関する非薬物療法のエビデンスはほとんどないため,現状ではMASCCの提言を参考にしたい(表2).看護師は,便秘のリスクに曝されている,もしくは便秘を経験しているがん患者やその介護者に対して,便秘の予防や治療のために,ライススタイルの教育を提供することや,便秘が改善されないようであれば,医療従事者に知らせるよう教育することが重要である.わが国においても,日本緩和医療学会緩和医療ガイドライン委員会が編集した『がん患者の消化器症状の緩和に関するガイドライン2017年版』において,がん患者の便秘に対する看護ケアには,個別性に応じた緩下剤の選択やほかの薬剤調整の推奨が述べられている7).
ガイドラインでは,薬物療法に関する内容が多いが,薬物療法を成功させるためには,患者の疾患,腸の状態,服薬状況などをアセスメントし,あくまでも個別性に応じて管理をしていくことが求められる.便秘の非薬物療法は,少しずつではあるが,具体的な支援方法が明らかになってきている.近年,がん患者の便秘に対して,耳介や腹部への指圧に関する報告がでてきているため,いくつかがん患者の便秘に対する支援を紹介する.
[ROME FOUNDATION: Rome Ⅳ Criteria, https://theromefoundation.org/rome-iv/rome-iv-criteria/(2023年9月15日確認)を筆者が翻訳して引用]▼表1 OICの診断基準 オピオイド療法を開始(または変更や増量)する際に,新たに便秘の症状が発生(または悪化)した場合に,以下の2つ以上を含む 排便時いきみを伴う 硬い便(ブリストル便形状スケールで1~2) 残便感 肛門の閉塞感 自然排便が週に3回以下 排便を促進する用手的な排便介助が必要 下剤を使用しなければ緩い便が排出されることはほとんどない
[Davies A et al: MASCC recommendations on the management of constipation in patients with advanced cancer. Supportive Care in Cancer 28: 23-33, 2020を筆者が翻訳して引用]▼表2 進行がん患者の便秘の管理 ~MASCCの提言~ 定期的に便秘の評価をする 腸の蠕動の頻度,腸の緊張,残便感,直腸・肛門の閉塞感,下剤の使用状況,補完的な手段の使用状況,オピオイド鎮痛薬開始後の腸機能の変化,ブリストルスケールによる評価 個別性に応じて管理する 適切なプライバシーや,快適な機器(便器,足置きなど)を提供する ライフスタイルの変化の効果は限定的である 食物繊維摂取や水分摂取の増加,身体活動の増加は便秘を改善するとあるが,進行がん患者に有効だとするエビデンスはない.また,オピオイド誘発性便秘では改善しない.
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