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はじめに
浮腫とは,細胞外液のうち血管外液量が増加し,組織間質に過剰な体液が貯留した状態を指す.末梢血管静水圧(体液が血管外に押し出される圧),膠質浸透圧(体液が血管内に引き寄せられる圧),毛細血管透過性やリンパ還流によって間質に存在する水分量は調整されているが,それらのいずれかの不調和によって浮腫は引き起こされる1).薬剤に起因する薬剤性浮腫は,腎からのナトリウムと水の排泄低下や,ナトリウムと水の過剰負荷,毛細血管静水圧の上昇や透過性亢進,血管性浮腫などから起こるとされている2).
がん薬物療法における薬剤性浮腫は,外来化学療法中や,治療後にしばしば患者から聞かれる苦痛症状の1つである.投与薬剤を中止または減量することで,症状は消失するが,一過性であっても患者の苦痛は大きい.とくにタキサン系薬剤であるドセタキセルは全身性浮腫をきたすことが報告されている.ドセタキセルの投与後に浮腫による苦痛を訴える患者は多いにもかかわらず,なかなか効果的な対処方法がなく,見逃されていることが多い3).
ドセタキセルによる薬剤性浮腫でとくに問題となるのは,抗がん薬投与後,さらに患側の四肢がリンパ浮腫のリスク因子となることである.リンパ浮腫は「リンパの輸送障害により,リンパ運搬能力が低下して間質内の血漿由来のタンパクや細胞が運搬できず貯留すること」と定義される4).とくにがん患者の場合,リンパ節郭清を伴う手術療法後に患側四肢にリンパ浮腫の発症リスクが高まるが,全身性浮腫をきたしやすいドセタキセルなどが投与されることで,さらに発症リスクが高まることが報告されている5).このような場合,外来で化学療法を受けている患者に対しては,薬剤性浮腫から患側四肢にリンパ浮腫が発症するリスクを考慮し,早期に予防行動を指導することが重要である.同時に,看護師が行う採血や静脈穿刺などの看護技術(処置)について,最新のエビデンスに沿って実践することが必要である.
本稿では,まず薬剤性浮腫をきたす抗がん薬についての知識を得るとともに,ドセタキセル投与による全身性浮腫の後に,患側四肢のリンパ浮腫の発症リスクを抑えるための看護技術を中心に解説していく.
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