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どんな薬?
オラパリブは,2016年に日本で初めて承認されたPARP阻害薬で,BRCA1/2遺伝子変異陽性の卵巣がん,乳がんの治療薬として導入されました.現在では,BRCA1/2遺伝子変異陰性卵巣がん,前立腺がん,膵臓がんに対しても適応が拡大しています.欧米では,複数のPARP阻害薬が承認されていますが,日本でもオラパリブに続いて,2020年にニラパリブトシル酸塩水和物が承認されています.ニラパリブトシル酸塩水和物はBRCA遺伝子変異の有無にかかわらず使用が可能で,それぞれの薬剤の適応は異なっています.
PARPは,DNA修復に関与する酵素で,DNAの1本鎖切断と2本鎖切断の双方の修復にかかわっています.同じく,DNAの修復に関与している酵素がBRCA1とBRCA2で,BRCA遺伝子に変異があって正常に機能していない場合にPARPを阻害すると,相同組み換えによるDNA修復機構が働かず細胞死が起こるといわれています.
オラパリブ適応のカギであるBRCA遺伝子はがん抑制遺伝子の一種で,傷ついたDNAの修復に関与し,腫瘍細胞の発現や増殖を防ぐ役割をもっています.この遺伝子に変異が起こるとDNAの損傷が修復されず,細胞は正常機能を失うことになり,その結果さらに遺伝子変異を引き起こしやすくなり,がんが発生するといわれています.BRCA遺伝子には1と2があり,この遺伝子の変異は遺伝的に受け継ぐ生殖細胞系の変異と,後天的に起こる体細胞系の変異があります.BRCA1とBRCA2遺伝子変異が発現しているがんには,乳がん,卵巣がん,膵臓がん,前立腺がんがあり,米国のアシュケナージユダヤ人,ノルウェー人,オランダ人,アイスランド人などで発現率が高いといわれています.米国女優のアンジェリーナジョリーさんは生殖細胞系列のBRCA1遺伝子変異が見つかったため,予防的に乳房,卵巣を切除しました.このニュースによって,世界的にBRCA遺伝子変異やHBOC (Hereditary Breast and Ovarian Cancer)が認知されました.
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