- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
促進因子・阻害因子・バリアの特徴
がん性疼痛は,頻度の高い,がん患者が体験する苦痛症状の1つである.がんの診断時に30%の患者が体験しているといわれ,その発症率は病期の進行とともに90%まで上昇するといわれている1).がん性疼痛は,身体はもちろん,社会的な活動,QOLに影響を与える2)ため,適切な医療用麻薬の使用による疼痛緩和が重要である.医療用麻薬を適切に服薬している患者,切れ目のない痛みに対してがまんしない患者,レスキュー薬を使用している患者はそうでない患者と比較して痛みの評価が低かったことが明らかにされ,痛みの緩和には医療用麻薬の使用が重要であることがわかっている3).
しかし,医療者が患者のがん性疼痛の緩和を願って,医療用麻薬の使用を勧めた際に,患者本人・家族が医療用麻薬の使用に抵抗を示す場合がある.実際に,抵抗を示したために医療用麻薬の開始が遅延し,結果的に患者が苦痛症状に耐える時間が増えたと考えられる事例を皆さんも経験したことも少なくないだろう.
医療用麻薬の服薬アドヒアランスの低下要因,つまり不適切な服薬の約8割は患者の認識や行動に原因があるといわれている.それは,医療用麻薬に対する懸念,否定的な考え,誤解,偏見,社会的な立場や周囲との関係性(人前で医療用麻薬を飲めない,飲みたくない)などの心理的側面の影響,副作用による身体的ダメージ,病状進行による疼痛への否認があるといわれている4).
一方で,患者自身が服薬行動をとることで,薬に対する効果や必要性を感じ,自分自身の病気や治療に関心があり,医療従事者との患者間での信頼関係がある場合は,服薬アドヒアランスが向上する3).
がん患者の痛みは,身体的な痛みのみでなく,さまざまな苦痛症状,病状進行や死に対する不安や尊厳の損失などの苦痛によって「痛み」を表現し,その患者や家族なりの意味づけがされるため,個別性がある.医療者は全人的な苦痛のアセスメントを基本とし,患者・家族と信頼関係を構築しながら,その人なりの痛みの意味,セルフマネジメント方法をアセスメントし,医療用麻薬の服薬を生活に取り入れやすくする支援が重要である.そのケアプロセスにおいて,医療用麻薬のアドヒアランスを強化していくことが求められる.
© Nankodo Co., Ltd., 2022