- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
この連載は,あらゆる活動の場でがん看護に携わる看護師に向けて,スピリチュアルケアの入門書となるよう書き進めようと思います.
2002年WHOが緩和ケアの定義において,スピリチュアルな問題へのアプローチの重要性を示したのをきっかけに,日本でもスピリチュアルケアへの関心が高まり,全人的苦痛の一つにスピリチュアルケアが位置づけられています.がん患者が体験するスピリチュアルペインとそのケアは,村田久行氏による3次元存在論に基づくスピリチュアルケアをはじめ,田村恵子氏らの「SpiPas」の開発など,スピリチュアルペインの構造化やアセスメントツールなどが示されてきました.しかし,がん患者のケアに当たる看護師は,「早くお迎えが来てほしい」「こんなに痛いなら死んだほうがまし」「生きていても意味がない」という患者のスピリチュアルペインの表出に「どう答えればいいのか」「何も言えない」とスピリチュアルケアが出来ない苦しみを体験し続けていることも事実です.それは同時に,がん患者のスピリチュアルペインが十分にケアされているとはいいがたい現状を意味しているでしょう.
なぜ,スピリチュアルケアが実践されていないのでしょうか.それは,①スピリチュアルペインが痛みや呼吸困難などの身体症状とは違う自己の存在と意味が脅かされる苦しみであるがゆえに,看護師がスピリチュアルペインとして認識するのが難しいという現状があること,②看護師は看護基礎教育でほとんどスピリチュアルケアについて教育・訓練されないまま臨床の現場に出ていること,③スピリチュアルケアの実践は,ケアの方法が明確に示されていないがために,個々の看護師の経験と勘に基づいて行われているからだと考えられます.
以上のような背景から,本連載では全6回にわたり,あらゆる看護実践の場でがん看護に従事する看護師に向けて,意味と根拠を持ち実践できるスピリチュアルケアの入門編を掲載する運びとなりました.
スピリチュアルケアを実践するには,スピリチュアルペインの現象学的な理解と,ケアについての理論的な理解,そして訓練が必要です.この連載ではスピリチュアルケアを,「スピリチュアルケアの現状と課題から対人援助論について」「スピリチュアルケアと対人援助論」「スピリチュアルペインを理解する~現象学的アプローチ~」「スピリチュアルケアとは何をどうすることなのか」「援助的コミュニケーションによるスピリチュアルケアの実践例」「スピリチュアルケアとスピリチュアルコーピングストラテジー」という構成で紹介していきます.実践例では,日ごろのスピリチュアルケア実践を振り返る機会になるようにと考えています.この連載の最後には,スピリチュアルケアをさらに学べる交流会や研修会情報をお伝えしようと思います.今回の連載で学んだスピリチュアルケアを,それぞれの現場でがん看護にあたる皆さんが,がん患者さんに還元していってくださることを願っています.
© Nankodo Co., Ltd., 2022