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どんな薬?
パクリタキセルは,西洋イチイという植物から抽出された薬ですが,薬の開発による樹木の伐採で環境問題が重視されるようになりました.そのため,現在では成分の一部を利用して,半合成で製造されています.
パクリタキセルは,1990年代に発売になった抗がん薬で,当時は新規抗がん薬の誕生に大きな期待を寄せている医療者,患者・家族が多かったのを覚えています.とくに,パクリタキセルは,既存のビンカアルカロイド系微小管阻害薬と異なる作用機序であることがわかり,固形がんにおいて,治療選択の幅が広がりました.臨床試験の結果,卵巣がん,非小細胞肺がん,乳がん,胃がん,子宮体がんなどでの有効性が示され,現在では固形がんのキードラッグのひとつとなっています.
しかし,パクリタキセルは今までになかった特徴的な副作用もあり,前投薬の必要性,投与時間の厳守,アルコール過敏反応による注意,輸液セットの選別など薬剤投与管理は複雑で,当時は非常に緊張しながら行っていたのを覚えています.ある日,日勤で病棟に行くと,隣の呼吸器病棟の夜勤看護師と病棟師長が慌ててやってきて,「昨日,パクリタキセルを投与した患者が夜間帯に顔面紅潮しているのを見つけて,いつもより会話のスピードもゆっくりだし,会話がずれることもあって,気になっているんです.バイタルサインは問題ないのですが……そういえば昨日,DEHPフリーの輸液セットを使うのを忘れていて,普通の輸液セットで投与したので環境ホルモンの一部が体内に入ったために過敏症を起こしたのでしょうか」と相談を受けました.この質問にはいくつかの症状や原因が入っていて,それぞれの関連性がずれています.確かにどれもパクリタキセルの特徴として理解しておかなければならないことですが,その知識が不十分なために混乱している状況でした.これに対する,私の判断は「パクリタキセルの溶媒に無水エタノールが使用されており,アルコール過敏症の症状が出現しているので,ほかに症状がなければそのまま様子観察でよいです」でした.
この一場面から見ても,当時は既存の抗がん薬でここまで複雑な投与管理をしていなかったので,パクリタキセルがもつ特徴を1つひとつ理解して投与管理をしなければいけない状況は,看護師にはストレスでした.今では,普通に投与していることも,こういった経験から看護師が工夫をしたり,観察方法を見出したりしてできたものなのです.
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