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私たちの暮らす日本では,台風等の風水害,地震・津波,火山,雪害の自然災害は,年間十数件発生している.いったん災害が発生すると,多くの被災傷病者の発生,ライフラインの途絶など,被害地域のすべての人々に影響を及ぼす.がん患者や医療機関も被害を受け,通常の活動が障害されることは,例外ではない.
がん患者の災害対策については,1995年の阪神・淡路大震災を経験した看護師を対象とした調査が行われ,その結果をもとにがん患者への災害対策パンフレットが開発されている.その後,2011年の東日本大震災を経験した医療職を対象とした調査が行われた.これらの研究から,災害時のがん患者に生じる問題として,がん治療の中断,症状マネジメントのための薬剤確保の困難があげられている.そのほか,医療者の精神的負担の軽減が課題とされている.近年,がん患者が増加し,がん治療や療養場所が多様化している.また,がん治療を通院や在宅で受ける患者が増加していることから,災害時のがん患者への影響やその対策,必要な備えも変化してきている.
災害は発生直後の短期間だけでなく,数ヵ月~数年にわたり影響を及ぼし,通常の状態(平時)に戻るまでに長期間を要する.その間に,看護師に求められる役割は,がん看護だけではない.災害発生直後では被災による死亡を最小限にとどめる救出が優先されるが,時間経過とともに,避難した人々の健康と生活の維持が優先されていく.つまり,災害時には,平時と異なる医療・看護の優先順位が生じるので,災害発生後の時間的経過を示す災害サイクルをふまえたうえで,災害直後に優先するがん患者の災害対策,避難後時間経過に合わせて優先するがん患者の災害対策を検討する必要性がある.そのためには,がん看護の知識と経験をもつ看護師が,平時とは異なる災害時の状況を知ること,がん患者の災害対策に取り組むことが重要である.
本特集では,がん看護に携わる看護師に必要な災害看護の基礎知識をまとめ,災害発生時の自助・共助・公助について解説する.また,近年に発生した災害の経験をもとに,災害によるがん患者への影響とその対策・備えについて紹介する.
本特集が災害などの非常時のがん看護を考える手がかりとなれば幸いである.そして,今後の災害対策をともに検討できればと思う.
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