Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
- 参考文献 Reference
は じ め に
骨・軟部腫瘍(肉腫)の治療成績は補助化学療法の導入により一定の改善をみたが,初診時進行や薬剤耐性の高悪性腫瘍では依然として不良であり,初診時転移がない症例においてもいまだ改善の余地を残す.しかしながら,「希少がん」であるがゆえに限られたデータ量や,それに伴う消極的取り組みが影響し新規治療の開発が滞っている.具体的には,軟部肉腫において数十年前よりアドリアマイシンを超える治療成績の薬剤開発はなく,骨肉腫の化学療法においても用いられる薬剤は過去30年間大きくかわっておらず新規治療戦略が望まれる.
一方で肺癌を中心とする主要な癌種の領域では,EGFR変異やALK,ROS1,RET融合遺伝子などの発生・悪性度因子である “driver-oncogene” を治療標的としたチロシンキナーゼ(TK)阻害薬治療が盛んであり,治療成績はめざましく改善している.その背景には近年,次世代シークエンサー(next generation sequencer:NGS)を用いた治療標的開発とその検査であるがんクリニカルシークエンス(がんCS)に基づいたプレシジョンメディシン(精密医療)が欧米ですすみ,正確な診断・正確な分類・治療法の選定に紐づくコンパニオン診断,また癌種にとらわれない遺伝子変化に基づいた治療法の選定に紐づくバスケットトライアル,さらにはそれら蓄積データによる新規治療開発がすすみ,実臨床の個別化医療のみならず迅速で合理的な新規治療研究開発戦略にも大きく貢献している1,2).その成果として軟部腫瘍においてもNTRK1-3融合遺伝子腫瘍群に対するTK阻害薬であるラロトレクチニブなどがNTRK1-3融合遺伝子陽性腫瘍に著効することが発見され,近年のバスケットトライアルの成功の象徴とされている3~5).しかし,がんCSによるNTRK1-3融合遺伝子腫瘍のヒット率は低く(1%以下),疫学的背景解明がまたれる6).
われわれのグループでは,2016年より米国Memorial Sloan Kettering Cancer Center(MSKCC)が開発したMSK-IMPACTを国内導入し,実際の臨床に使用し,かつ新規治療法開発のために共同研究をすすめてきた1,2).その過程において軟部肉腫にNTRK1融合遺伝子を同定し7,8),その阻害薬を用いたFood and Drug Administration(FDA)single patient protocolへの参加を経験し,骨肉腫においては新規治療法になりうる新規標的を発見した9).さらには近年RNAシークエンスパネルを用いた検査で骨・軟部腫瘍87例を検査し,TK阻害薬が治療標的となりうるTK融合遺伝子を高い確率(約10%)で同定することに成功し,その中にはNTRK融合遺伝子をもつ骨腫瘍が存在することを発見した.
本稿ではわれわれのグループがすすめている骨・軟部腫瘍におけるがんCSを使用した実際の臨床状況と研究開発について解説する.
© Nankodo Co., Ltd., 2021