Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
- 参考文献 Reference
は じ め に
近年,スポーツ傷害の予防の重要性が認識されはじめ,スポーツ傷害予防研究への注目は年々高まっている.前十字靱帯(anterior cruciate ligament:ACL)損傷は手術を要する膝関節スポーツ傷害の中でもっとも多い.近年のACL再建術の進歩に伴い短期的には手術により良好な結果が得られるようになったが,スポーツ復帰にはいまだに長期間を要し,また長期的にはACL再建術は変形性膝関節症への進行を予防できないとの報告もある.そのため,ACL損傷,特に介入可能である非接触性損傷に対する予防法の確立が望まれており,その受傷メカニズムの解明は予防法を考えるうえで欠かせない大事なステップである.
受傷メカニズムの研究方法にはさまざまなアプローチがある.その中でも,受傷シーンのビデオ解析は実際の受傷時のバイオメカニカルな情報を得ることができる唯一の方法であるが,これまでその方法は単純な視覚的分析(ビデオをコマ送りしながら受傷シーンの状況の分析や関節角度の推定を行う方法)に限られていた.しかし,視覚的分析による関節角度の推定はもっとも容易と思われる膝関節の屈曲角度においてさえかなりの誤差があることが示されており,また損傷のタイミングの推定は困難であること,低画質のビデオでは分析がさらに制限されることから,より精度の高いビデオ解析方法の開発が必要とされていた1).
そこでわれわれは,単純な視覚的分析にかわる新たなビデオ解析のアプローチとして,コンピュータグラフィックソフトウェアであるPoser(Curious Labs社)を用いたmodel-based image-matching(MBIM)法を開発した.この方法は,複数のビデオカメラから撮影された実際の受傷シーンのビデオを背景として用い,背景のビデオに三次元モデルをマッチさせることにより三次元的なキネマティクスを推定する,というものである.表面マーカーを用いた動作解析をゴールドスタンダードとしてこの方法の妥当性を検討したところ,2方向以上の撮影で行った解析におけるroot mean square differenceは膝屈曲/伸展で10°以下,膝内外反で6°以下,膝内外旋で11°以下,質量中心速度で0.3m/s以下と,単純な視覚的分析よりもはるかに正確な三次元情報を得ることができた2).そこでわれわれは,MBIM法を実際の非接触性ACL損傷の受傷シーンのビデオ解析に応用し,受傷メカニズムの詳細な解析を試みた.
© Nankodo Co., Ltd., 2019