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はじめに
近年,スポーツ傷害の予防の重要性が認識され始め,2011年4月にはInternational Olympic Committee(IOC)主催で第1回IOC World Conference on Prevention of Injury & Illness in Sportが開催されるなど,スポーツ傷害予防の研究への注目は年々高まっている.
スポーツ傷害の予防には図1に示すように4つのステップがある1).第1のステップは発生率,重症度などの傷害発生状況の把握であり,このステップで予防のフォーカスを当てるべき傷害を同定する.第2のステップでは内的および外的要因,危険因子や受傷メカニズムなどその傷害の原因となるものを特定,解明する.第3のステップでは第2のステップで得られた知見をもとに予防プログラムを導入する.第4のステップでは第1のステップを繰り返すことにより予防プログラムの効果を評価する.そのうち受傷メカニズムの解明は第2のステップにあたり,スポーツ傷害の予防を考える上では欠かせない大事なステップである.
受傷メカニズムの研究方法には様々なアプローチがある.選手への聞き取り調査,臨床所見(関節鏡,画像所見など)の研究,模擬動作における3次元動作解析,In vivo研究,cadaverを用いた研究,受傷シーンのビデオ解析,コンピューターモデルを用いたシミュレーションなどの様々なアプローチからこれまで研究が行われてきている.その中でも受傷シーンのビデオ解析は実際の受傷時のバイオメカニカルな情報を得ることができる唯一の方法であるが,これまでその方法は単純な視覚的分析(ビデオをコマ送りしながら受傷シーンの状況の分析や関節角度の推定を行う方法)に限られていた.しかし視覚的分析による関節角度の推定は最も容易と思われる膝関節の屈曲角度においてさえかなりの誤差があることが示されており,また損傷のタイミングの推定は困難であること,低画質のビデオでは分析がさらに制限されることから,より精度の高いビデオ解析方法の開発が必要とされていた2).
そこで我々は単純な視覚的分析にかわる新たなビデオ解析のアプローチとして,コンピューターグラフィックソフトウェアであるPoser®を用いたmodel-based image-matching(MBIM)techniqueを開発した.この方法は複数のビデオカメラから撮影された実際の受傷シーンのビデオを背景として用い,背景のビデオに3次元モデルをマッチさせることにより3次元的なキネマティクスを推定する,というものである.始めにバックグラウンドのモデルを作成し,それをビデオ内の周囲ランドマークとマッチさせることによりカメラの位置を推定する.次にスケルトンモデルを選手の身体計測から得られた値をもとにカスタマイズしたうえでビデオ上の選手にフレームごとにマッチさせることにより受傷シーンにおけるキネマティクス及び床反力を得ることができる.この方法を表面マーカーを用いた動作解析をgold standardとしてvalidation studyを行ったところ,2方向以上の撮影で行った解析におけるroot mean square differenceは膝屈曲/伸展で10°以下,膝内外反で6°以下,膝内外旋で11°以下,質量中心速度で0.3m/s以下と,単純な視覚的分析よりもはるかに正確な3次元情報を得ることができた3).今回我々はMBIM techniqueを実際の非接触性ACL損傷の受傷シーンのビデオ解析に応用し,新たな知見を得られたので報告する.
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