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は じ め に
「魔女の一撃」とも称されるぎっくり腰の病態については不明な点が多い.患者は腰殿部における激痛のため自力では起立できず,歩行器に寄りかかった状態や,ストレッチャーで搬送され受診する.筆者はぎっくり腰の病変部位はどこなのか,そしてぎっくり腰がなぜ生じるのか,かねてより関心があった.日常診療を重ねているうちに印象的なぎっくり腰患者2例を診療する機会があり,その経験から共通する特徴的な所見を得た.2例とも左右いずれか片側の腰殿部を強く痛がり,筆者が母指で圧痛点を探ると後上腸骨棘(posterior superior iliac spine:PSIS)に痛みの焦点があり,その部位周辺に局所注射を実施したところ著しい除痛効果が得られた.数日後の再診時に治療前後の様子を尋ねたところ,ぎっくり腰発症前から注射部周辺に鈍痛を覚えていたことと,注射後は痛みの再発を避けるため患側に荷重をかけた姿勢を避けているという回答が2人から得られた.その姿勢とは,1人は就労時の長時間に及ぶ偏った立位姿勢であり,もう1人は自宅でTVをみて寛いでいるときの数時間にわたる偏った長坐位姿勢であった.
この経験以来,腰殿部に激痛をもたらすぎっくり腰と日常生活における偏った姿勢との間には,臨床的になんらかの関連性があると考え,主に機能解剖学的文献に拠り所を求めた.その中で,Kapandjiは腸骨と仙椎間にある後方の靱帯群は仙椎を吊り下げることで荷重負荷の中心的な役割を担っており,腸骨の前後回旋と仙椎の前後屈運動は連動している1)とし,VleemingはPSISに付着する長後仙腸靱帯は仙椎が後屈するときに緊張する2)と述べている.
これらの報告に触れ,筆者は次のような仮説を立てた.二足動物であるヒトが日常生活で無意識にとってしまう姿勢,すなわち習慣的に片側に偏って体重を支える姿勢(習慣的偏荷重姿勢)により,長後仙腸靱帯には慢性的な緊張負荷が加えられる.この緊張下にある長後仙腸靱帯に日常生活上のなんらかの動作により過大な負荷が加えられた結果,ぎっくり腰が発症するのではないかというものである.本稿は,この仮説を検証する方法としてぎっくり腰の発痛源と考えられる長後仙腸靱帯へのブロックを行い,その除痛効果に基づき知り得た結果から,ぎっくり腰の発症メカニズムを考察したので報告する.
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