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は じ め に
内側膝蓋大腿靱帯再建術(medial patellofemoral ligament reconstruction:MPFLR)は膝蓋骨不安定症に対する術式として過去20年間に広く行われるようになった.しかしながら,術後合併症として,再脱臼,再手術,膝屈曲制限,膝屈曲時痛,膝蓋大腿関節の変性などが報告されている.その発生率は報告により大きく異なり一定の傾向を認めない1,2).その原因としてMPFLRの手術手技にゴールドスタンダードはなく,大腿骨孔の位置,膝蓋骨側の固定位置,移植腱固定張力,固定時の膝屈曲角度などにおいて術式が多様であることがあげられる.特に大腿骨孔の位置とそれに伴う膝屈伸中の異常な移植腱張力変化はMPFLRの術後合併症に影響すると報告されている3~5).
正常な内側膝蓋大腿靱帯(medial patellofemoral ligament:MPFL)は伸展位から屈曲60°まで等尺性を示し,60°を超える屈曲角度で張力は低下する6).一方,膝屈曲時にMPFL移植腱張力が増強する異常な張力変化を示せば,膝屈曲時痛,膝屈曲制限,変形性膝蓋大腿関節症,および移植腱の伸張,伸展位での移植腱張力の低下と再脱臼を起こす可能性がある.膝屈伸中の移植腱張力変化のコントロールは,術後合併症を回避するためのもっとも重要な因子の一つといえる.
大腿骨孔の位置は移植腱張力変化に影響を及ぼすもっとも重要な因子であると,生体力学的研究およびシミュレーション解析により報告されている7).一般的に大腿骨孔の位置は解剖学的ランドマークに基づき作成されるが,その位置は一定確率で正常な位置から大腿骨孔がはずれて作成されているとの報告がある8,9).さらに膝蓋骨不安定症における大腿骨側付着部の解剖学的位置,適切な大腿骨孔の位置についての意見の一致をみていない.MPFLRにおいては解剖学的な位置ではなく適切な移植腱張力変化を示す個々の最適点を見出す必要がある.
そこで,大腿骨孔の位置を伸展位から深屈曲位までの移植腱張力変化に応じて決定することにより術後合併症の発生率を下げられるとの仮説に基づき,当科では2011年3月以降,術中に移植腱張力パターンを確認して大腿骨孔を決定している(「Ⅰ.対象および方法」の項を参照).本研究では,大腿骨孔の位置を移植腱張力変化に基づいて決定した現在のMPFLR(張力群)と,それ以前の術式(大腿骨孔の位置を解剖学的ランドマークで視診と触診で決定したMPFLR)[視診群]の術後成績を比較・検討した.
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