特集 テイルアンカー型タンパク質の細胞内輸送と膜挿入機構:現代生物学に残された謎の一つがいま解かれる
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藤木 幸夫
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1九州大学大学院理学研究院 生物科学部門
pp.834-836
発行日 2013年7月22日
Published Date 2013/7/22
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真核生物の細胞内には膜で仕切られた細胞小器官(オルガネラ)が形成され,そこに特定のタンパク質が局在化することにより,高度な空間的秩序に基づく生命活動が営まれている.こうしたタンパク質の細胞内輸送およびオルガネラの形成・分化に関わるタンパク質群は,当然遺伝情報の支配下にあるが,細胞は細胞からのみ複製でき,オルガネラの多くはde novoには形成されず,遺伝情報とは独立に既存の構造が拡大・分裂することで娘細胞に伝えられる.したがってこれらのメカニズムの解明は,ゲノムに書き込まれた遺伝情報と,細胞構造というゲノムに書き込まれていない情報が協調して細胞の機能発現とその秩序維持を実現するという,生命現象の根幹に迫るきわめて重要な課題である.細胞内には様々なオルガネラが存在し,それぞれに特異的なタンパク質の選別輸送機構が備わっている(図1).周知のとおり,リボソームで新生タンパク質の細胞内輸送機構は3つに大別される.すなわち,核-細胞質間輸送,オルガネラへのターゲティングと膜透過,および小胞輸送(メンブレントラフィックとも呼ばれる)である.これらの経路で,タンパク質が直接オルガネラへ移行しうるのは,核,ミトコンドリア,植物系での色素体(葉緑体),ペルオキシソーム,小胞体だけであり,その他のオルガネラへは小胞体にいったん移行した後,小胞輸送によって移送される.小胞輸送の経路には,小胞体→ゴルジ体→細胞膜(細胞外)という分泌経路,小胞体→ゴルジ体→リソソーム(液胞)というリソソーム・液胞経路,そして細胞外からエンドソームを経由してリソソーム(液胞)へタンパク質を取り込むエンドサイトーシス経路の3つがある.
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