特集 エピゲノム制御の最新分子メカニズム
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石井 俊輔
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1理化学研究所 石井分子遺伝学研究室 上席研究員
pp.838-840
発行日 2015年8月22日
Published Date 2015/8/22
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エピジェネティクス(epigenetics)という言葉は,“DNAやヒストンの化学修飾により支配される遺伝学”を意味し,DNAメチル化,ある種のヒストン修飾,small RNAなどが,体細胞分裂や減数分裂を超えて維持されることが,そのメカニズムの根幹である.これらの3つの異なるメカニズムによるエピゲノム制御により,染色体上の特異的な構造が形成されている.セントロメア上では細胞分裂装置が形成されることから,細胞分裂を超えて,転写が不活発で,固い安定な構造が維持される必要がある.したがって,セントロメアは特異的なヒストンやヒストン修飾を含むことが知られているが,その形成メカニズムが最近ようやくわかってきた(深川氏の稿).また,セントロメアや染色体末端のテロメアの近傍は転写が不活発で,DNAメチル化やヒストンH3の9番目のリジン残基のトリメチル化(H3K9me3)に富む構造を持ち,ヘテロクロマチンと呼ばれている.このヘテロクロマチンの形成メカニズムは15年ほど前から分裂酵母などのモデル生物を用いて解析され,その形成メカニズムの詳細が明らかにされてきた.古い教科書では,セントロメアやテロメア近傍のヘテロクロマチン領域以外は,すべて転写が活発なユークロマチンと記載されていることもあったが,最近のゲノムワイドな解析から,ユークロマチン領域にもDNAメチル化やヒストンH3K9me3に富むヘテロクロマチンが散在し,特異的遺伝子や内在性トランスポゾンの抑制状態の維持に関与することが知られている.
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