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「動く細胞・群れる細胞」という特集が組まれることになったのは,編集部による「細胞の移動・旅」のメカニズムに焦点をあてた企画の提案にさかのぼる.これまでにも「細胞工学」では「動く細胞」の特集号が多く出されて,私自身大いに刺激を受けてきた.例えば,「ムービーで探る生体内の細胞動態」(2003 年7 月号・高浜洋介監修),「EMT研究がいま面白い」(2008 年4 月号・山田 源監修),「転移とは何か」(2009 年7 月号・丸 義朗監修) などがある.一方,動く細胞は周辺の微小環境とクロストークしながら,秩序を形成しているが,これについては2007 年10 月号特集「細胞外環境による形態形成の制御」(西脇清二監修)に当時の先端研究が紹介された.特集は多くの場合,分野横断的に構成され,ある細胞,器官や特定の現象に注目する研究者が自身が主として挑んでいる対象とは似て非なる,あるいはまったく異なる細胞の生き様を知る貴重な機会となってきた.現代はハリーポッター映画に登場する「動く風景写真やポートレイト」のように「静止画像」の本態が「動画」である(=「組織切片標本」上に認められる要素群で実際に動かぬものはない)ということが共有・体感されつつある時代であると私は感じるが,そうした時代の研究を考え合う号の監修者として私は,まず過去の関連特集がそうであったように,あるいはそれ以上に,執筆者が向き合う対象(細胞,現象)の「多様さ」が伝わることを願った.「動き」の種類は三次元の世界では限りなく多い.その実態・表現法を知ることは,これまで生物学が動物種や細胞種の同定・命名,あるいは細胞系譜の把握に力を注いできたのと同様に,とても重要であると私は考える.「動く」に「群れる」を加えたのも,この「動画時代」に多細胞の営みを(その複雑さに圧倒されつつも)直視し,問いかけることの面白さ・重要さを語るようにと考えたためである.
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