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1.はじめに
老年看護を教育研究する立場の多くの者は,高齢者でも要介護者でもない.したがって,われわれは,多様な生活文化や価値観で生きてきた当事者(高齢者・要介護高齢者)の個別性を集め,老い方の多様性を創出し,その分析・統合により新たな高齢者ケアを推進する視点が必要と考える.そのためには,ケアする側とケアされる側の垣根をなくし,要介護高齢者の「語り」に耳を傾け,当事者から学び取る努力が求められる.
ところで,超高齢社会で要介護者が増大する時代に,「老い」をどのようにとらえたら高齢者が幸せになれるのか.Butler(1995)が提唱するように「老い」は,衰退,介護,社会的コストなどの「依存性」ではなく,成熟,統合,智恵などの「生産性(プロダクティビティ)」としてとらえることであろう.生産性としてのプロダクティビティの概念は,単に就労などの有償労働にとどまらず,家事などの無償労働,ボランティア,相互扶助まで拡大している(藤田,2007).セルフケアについては,個人の能力が高まることで社会資源が豊かになるという点からプロダクティビティであるという考え方もある(藤田,2007;齋藤,2006;柴田,2003).そして,わが国では,プロダクティビティを社会貢献と同義語と位置づけている(柴田,2005).
社会貢献は,「社会」と「貢献」で構成され,それぞれをどのように解釈するかによって異なる.「社会」とは,個人から切り離された生活を規定する外的なもの“社会システム”(Durkheim, 1985;Weber, 1988)というマクロ的なとらえ方と,個々の関係者間で日々繰り広げる相互作用の編み目“つながり(私の社会)”(管野,2003)というミクロ的なとらえ方がある.また,「貢献」とは,辞書によれば“当事者の活動の目的”と,“当事者や他者による活動の結果を求める”と定義されている.このことから,社会貢献の解釈は,他者評価による社会システムへの貢献のみではなく,当事者評価によるセルフケアを含め,つながりのある家族や友人,近隣など関係者への貢献もあると考える.そして,要介護高齢者には,社会システムへの貢献は期待できずとも,つながりへの貢献は可能であり,その実態は存在する.
要介護高齢者の社会貢献の実態を事例によって可視化し,社会の“宝”として見いだし,当時者を生かした新たな高齢者ケアを推進する可能性を探ることで,安心と希望に満ちた超高齢社会に向き合いたい.
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