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- Abstract 文献概要
人は,眠る,休む,食べる,排泄する,遊び,学び,働き……を基本として毎日を生きている.したがって,人は,その基本を基準にして,理不尽な生活環境から逃れられないときには,怒り,ほんの少しの拘束や理不尽な不自由がどれほどに苦しいものかを他人にも解ってほしいと切望する.当事者ならばなおのことである.われわれは,この人間がもつ普遍的な価値観を支え支援することが看護学実践研究の根本において成り立つ仕事であることを,繰り返したたき込まれるようにして育てられてきた.しかし,とくに老年看護の場合は,石垣和子氏(第17回学術集会長)が会長講演で話されたように多くの看護職は実体験がないという意味で,自らの頼りない記憶や外側から伝え聞くところの情報からしか理解するすべのないあやふやな対応になりがちである.これが逆に硬直したコミュニケーション関係を増長する原因になるのかもしれない.これでは,看護がもっとも大切にしているリアルなケアへの取り組みは深まっていかない.ここでいうリアルとは,自身にとって具体的でないものは他人にとってはいっそう具体的にはならないという意味である.したがって,頭脳と肉体を通して考え,行為するサイクルにより成り立つケアはリアルな活動であってこそ「伝わる」はずである.これは住民が暮らすコミュニティの世界においてもいえることであろう.
今日,認知症の人が抱えている状況の情報は数多くあるにもかかわらず,その当事者の発信情報は驚くほどに少ない.当事者に発信する機会を与えてこなかったわれわれ社会が抱えているエイジズムの問題への言及はこのフォーラムの主テーマではないが,少なくとも,われわれ保健医療福祉サービス・ケア従事者は,自分のなすべきことを“からだ”に染み込ませたリアルな実践を示し伝える役割があるのではなかろうか.
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