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はじめに
従来,人生の最終段階としての老年期は,喪失期や衰退期としてのみ捉えられがちで,看護援助の視点も「できないことを補う」ということに傾斜しがちであったように思われます.しかし,1960年代頃より生涯発達理論が提唱され(Erikson, 1977),老年期にある人々も,発達しつづける存在として捉えられるようになってきて以来,老年看護の領域でも発達的視点で高齢者援助を考えていくことの必要性が求められるようになってきました.「老い」の問題を論じるときに「依存」「介護」「社会的コスト」からだけではなくポジティブな側面からみる積極的な発想が必要になってきています.老年看護において重要なことは,高齢者の方々が身体的な変調を多少抱えながらでも,長寿を自分らしく人生の統合に向けていきいきと生き抜くこと,長い人生を自分なりに納得して終えることができるように,支援することではないでしょうか.これらのことを踏まえて,私は今後,高齢者の心理社会的発達の視点から看護支援の方法を開発していくことが重要な課題となっていると考えています.以上の考え方のもとに,今回の学術集会テーマを「人生の統合を支える」といたしました.このテーマに沿って,これまで私が取り組んできました研究の一端をご紹介し,高齢者看護の新しい可能性をみなさまに考えていただくことを提案したいと思います.
私たちは看護実践の現場で過去を回想する高齢者にしばしば遭遇します.「老後はなぜ悲劇か」という衝撃的な著書を著し,ピュリッツァー賞に輝いたアメリカの老年医学者,バトラーは,高齢者が過去を回想することは自然におこる心理的過程であり,過去の未解決の課題を再度見直すことにもつながる機会として,積極的な意義をもっていることを指摘しています(Butler, 1963).また,グリーンハルらは,語る/書くという行為は外向的な行動であると同時に,自己反省と自己理解を可能にする内省的な行為であり,人生に意味を与えうると述べています(Greenhalgh et al, 1998).日本では,これまで,心理臨床実践の場を中心に,回想法,ライフレビュー,ライフストーリーなどの方法で高齢者が人生を語り,聴くことの意義の検討が重ねられてきています(Freed/黒川他訳,1998;野村,1998;山口,2004).そして,この後,教育講演をしていただくやまだ先生は「自分史」を含めたパーソナル・ドキュメントは,経験を記述することであり,自己をいかに回顧内省し再体制化するかという点で重要であるとされています(やまだ,1995).
また,自分史を書くということは,老年期に至っても維持されるといわれる,結晶性知能,文章作法を活用することによって,認知機能維持に奏功するだけでなく,活字化された「自分史」を繰り返し読み,人生の軌跡を自己確認できること,その中で得られる「強い自分」の発見,自尊感情を高められることなど,心理社会的発達を促進し,健康を維持するための効果が期待できると考えました(岡本ら,2000).
会長講演では,高齢者が人生を回顧し自分史を記述することを通して,生きてきた歴史をどのように意味づけ,人生を統合していくのか,看護はどのような支援ができるのかを明らかにする研究の一端を紹介し,高齢者の心理社会的発達を促し,人生の統合を支援する看護援助の可能性を探ってみたいと考えました.
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