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Ⅰ.はじめに
平成22年版防災白書によると,我が国は全世界の0.25%の国土面積しかないにも関わらず,マグニチュード6以上の地震回数が20.5%と非常に高いことが報告されている(内閣府,2012).そのため,自然災害に対する防災・減災についての取り組みは我が国の重要な課題となっている.防災・減災の取り組みに関しては,阪神・淡路大震災や東日本大震災の教訓から,自助・共助の重要性が報告されている(内閣府,2014a).
災害時の自助・共助に関する取り組みとして,地域住民が任意で結成する自主防災組織がある.自主防災組織は,過去の災害における教訓から結成が促進されており,確実に数を増やしている(内閣府,2014b).しかし,自主防災組織は,役員の固定化,高齢化,近年では高齢でも仕事を持つ人がいることによる人材確保の困難(小野まなみ,2016)や防災訓練の低い実施率・参加率,リーダーの不足(自主防災組織活性化検討委員会,2017)などの課題が指摘されている.また,有馬は,全国Web調査で自主防災組織カバー率が75.8%に対し自主防災組織加入自覚率は9.2%と報告しており,多くの自主防災組織は「有名無実の机上だけの名ばかりの組織となっているのではないか」と懸念している(有馬,2012).このような課題や懸念がある自主防災組織を災害時に有効に機能させるためには適切に活動を評価していくことが重要になると考える.齋藤らによる自主防災活動の評価に関する先行研究調査では,自主防災活動の評価研究は主にアンケート調査で分析しており,防災訓練などの活動回数やその参加率などといった形式的・表面的な項目に留まる感があると述べている(齋藤,梅本,糸魚川他,2014).このことは自主防災活動が適切に評価されていない可能性を示唆しているが,自主防災活動を評価するツールは確立されていないのだろうか.齋藤らの自主防災活動の評価に関する先行研究調査では,どのように先行研究を抽出したのかが述べられておらず,また,医療分野における研究が一つも含まれていない.
看護分野においては,阪神・淡路大震災以降から災害に対する意識が高まり,日本災害看護学会が発足し,多くの研究・実践活動がなされるようになってきた.日本災害看護学会の定義によると「災害看護」とは,「災害に関する看護独自の知識や技術を体系的にかつ柔軟に用いるとともに,他の専門分野と協力して,災害の及ぼす生命や健康生活への被害を極力少なくするための活動を展開すること」とされている(日本災害看護学会,1998).災害看護の関わりは,病院・施設だけではなく地域にも及ぶ.看護独自の視点で他の専門分野と協力して地域防災力向上に努め,地域住民の健康と生活を守るということは看護の重要な役割である.このような看護分野の状況から鑑みると,自主防災活動の評価に関する研究は医療分野も含めて明らかにしていく必要がある.
そこで,本研究では,学際的に自主防災活動の評価に関する先行研究の調査を行い,確立された自主防災活動の評価ツールがないかを明らかにし,また,その実態を明らかにすることで,今後の自主防災活動に活かしていきたいと考える.我が国の地域コミュニティは,都市部では地縁的なつながりや共通価値観の希薄化,また地方では人口減少・高齢化により存在そのものが危うくなっているといわれている(山内,2009).加えて,2025年までに高齢者の一人暮らしや高齢者のみの世帯が増加するため,自助を基本として,互いに助け合うことの重要性が言われている(地域包括ケア研究会,2008).自主防災活動がより活発なものとなれば,自主防災活動に取り組んでいる既存のコミュニティも強固なものとなる.また,災害における自助・共助の力は地域包括ケアシステムの構築を進める我が国にとっても有益なものとなり,地域住民の健康と生活を守ることに繋がると考える.
以上より,学際的に自主防災活動の評価に関する先行研究調査を行い,評価ツールの実態を明らかにすることで,今後の看護への示唆を得ることを目的とする.
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