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I.緒言
近年,地域包括ケアシステムが推進され,がん患者の平均入院日数は短縮する一方で,外来患者数が増加し,通院しながら治療を受ける患者が増加している 1).外来通院中の進行がん患者の約60%はがん疼痛を経験している 2).著者らが実施した外来進行がん患者のがん疼痛セルフマネジメントと痛みに関する調査によると,オピオイドを定時に服薬できない者は痛みの及ぼす生活への支障が強く 3),医療者による患者の生活に沿った服薬指導の実施や,患者自身が服薬できる環境を整えるセルフマネジメント能力が必要であることが示された.在宅進行がん患者が疼痛を緩和して生活するためには,患者自身の生活に沿ったオピオイド服薬が重要である.
これまで報告されたがん疼痛緩和のための支援は,症状マネジメントモデルの統合的アプローチ 4)5),自己効力感を高める 6)7),セルフケア能力を高める 8)9),がん疼痛とオピオイドに対する懸念を下げる 10)などであった.しかし,これらはがん疼痛緩和を目的とした支援であるため,オピオイド服薬のために用いているセルフマネジメントとは何かの概念を明確に記述し,さらにはどのような要因がセルフマネジメントを高めるかについて,科学的に検証したものは見当たらない.さらに,入院の場において進行がん患者の疼痛緩和に向けた様相を記述したものによると,患者は直面する困難に対し,痛みの原因と痛み治療や除痛援助の効果を吟味し,その結果をもとに自らの意思を働かせて行動する自己指示的取り組みを行い,その行動には患者の取り組みを後押しし,結果を保証する医療者の存在が重要である 11)とされている.
一方で,医療者の直接介入の機会が減る在宅の場における患者の試みや看護支援の報告は少ない.これまで報告されてきた外来通院中のオピオイド服薬患者が在宅において用いている疼痛マネジメントの様相は,増悪を防ぐ,環境を整える,自分に合うものを識別する,気持ちを支える,周囲に配慮し感謝して,時々の幸いをともに喜ぶなどの方法であった 12).しかし,痛みの状態が伝わっていない気がする,助けてくれる人がほしいといったニーズをもっていた 13).また,痛み治療を継続するために外来通院するがん患者が直面する困難と取り組みにおいて,困難への取り組みを可能にするには信頼できる専門家と家族の存在が重要である 14)ことが報告されている.これらの様相から,在宅進行がん患者がオピオイドを服薬し,疼痛緩和するためは,医療者や家族などに症状をうまく伝えられることや,手助けしてくれる人と環境を調整したり,感情を整えることが重要である.
一方で,これら調査 12)〜14)の限界は外来において在宅の状況を明らかにしたものであり,「在宅」の場における体験の理解は限定されていることである.患者の語りは,文化や社会的文脈を反映したものであり,身体と生活状況のダイナミックな相互作用により生み出される.よって,「在宅」という場における語りは,患者が疼痛緩和し自分らしく生きるために,どのようにオピオイドを服薬し生活しているのか,生活者としてのオピオイド服薬セルフマネジメントの試みをさらに明らかにすることができる.
本研究の目的は,在宅進行がん患者によるがん疼痛緩和に向けたオピオイド服薬セルフマネジメントの試みを明らかにし,セルフマネジメント獲得支援の基礎資料とすることである.なお,本研究におけるオピオイド服薬セルフマネジメントとは,「進行がん患者が自分自身でがん疼痛を緩和するために行うオピオイド服薬セルフマネジメント」と定義する.
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