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I.緒言
近年,頭頸部がんに対して手術療法,化学療法,放射線療法(radiation therapy: 以下RT)の集学的治療が行われている.頭頸部がんは,進行がんで発見されることが多く,機能温存の観点から化学放射線療法(chemoradiation therapy: 以下CRT)を選択する対象が増加している.さらに,局所進行症例に対し,術後CRTを行うことも多い.
頭頸部がんに対するRTの急性有害事象のひとつとして,放射線皮膚炎があげられる.頭頸部がんのRTは,ほかの照射部位と比較して総線量が66〜70Gyに及ぶこと,皮膚の吸収線量が高くなる4〜6MVのエネルギーを使用すること,また治療精度を高めるために固定具(シェル)を使用することにより皮膚の線量が高くなることから,「急性有害事象である放射線皮膚炎が94.3%」と高頻度で出現し 1),さらに「NCI CTCAE v4.0 2)グレード3〜4の重度の皮膚炎が25%程度出現」3)することが報告されている.
放射線皮膚炎のケアに関してこれまでに,保湿を目的としたヘパリン類似物質クリームやジメチルイソプロピルアズレン軟膏を使用しgrade2以上の皮膚炎が生じる割合の減少 4),保湿クリームの使用による放射線皮膚炎出現時期の遅延 5)が報告されている.
以上のように,保湿や保護を目的として,照射部位への軟膏塗布,リント布や非固着性ガーゼでの保護といったケアがなされてきたが,照射時にガーゼ類を脱着することで皮膚への刺激が生じている.また,RTにより脆弱になった皮膚がガーゼ類との摩擦による機械的刺激によって皮膚炎の悪化を導くことも多く,より有効なケアが求められている.
皮膚に発生する創傷の分野では,1950年代より,創部を適切な湿潤環境に保ち,滲出液中の有効成分を創部に留めることが創傷治癒促進に有効であることが明らかになったことで 6),moist wound healingの概念が提唱され,湿潤環境療法が標準化している.近年,褥瘡やスキン-テア(skin tear)や脆弱な皮膚に対して,角質剥離刺激の少ないソフトシリコン創傷被覆材を使用し,ケアが奏効している報告がなされている 7)8).これまでに外傷や熱傷,褥瘡などの創傷ではソフトシリコン創傷被覆材の有効性が確認されているが,放射線皮膚炎に対する効果は明らかではない.
放射線皮膚炎などの急性有害事象が悪化した場合,掻痒感や痛みによる患者のQOL低下のみならず,治療の中断や休止が選択されることがあり,皮膚炎の重症化の制御は重要な課題である.今回,頭頸部の放射線皮膚炎に対してソフトシリコン創傷被覆材を用いたケアが奏効し,RTを休止することなく完遂できた2症例を経験したため報告する.
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