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I.はじめに
保存期腎不全の治療目標は,腎不全の進行抑制と合併症の予防である.しかし,慢性腎臓病(以下,CKDと略す)のステージが末期となってきた際には,時期を逃さず,腎代替療法の準備期間を考慮した指導内容に変えていくことが求められる.なぜならば,腎代替療法への移行時に,患者のレディネスを整え,失敗体験とならぬよう,身体的・精神的・社会的侵襲を最小限にすることが,その後の長い透析生活を大きく左右するものと,療養生活を支援する医療者として認識しているからである.
昨今,フレイルという概念が注目されている.特に老年医学分野において,高齢期に生理的予備能が低下することでストレスに対する脆弱性が亢進し,生活機能障害,要介護状態,死亡などの転帰に陥りやすい状態で,筋力の低下により動作の俊敏性が失われて転倒しやすくなるような身体的問題のみならず,認知機能障害やうつなどの精神・心理的問題,独居や経済的困窮などの社会的問題を含む概念と位置づけられている(日本老年医学会,2014).CKD患者においても,腎代替療法移行時の高齢化や合併症保有率が問題になり,透析導入期にフレイルに陥り,「命は助かったが,生活がままならなくなった」との声を聞くことがある.
また,中心静脈カテーテル(以下,CVCと略す)による透析導入は生命予後を悪化させる可能性があり,CVCによる透析導入を避けることが望ましいといわれている(日本腎臓学会,2013).これは,CVCによる生体侵襲の大きさが影響するものであり,緊急透析導入のリスクを示唆するものである.
日本腎臓学会によれば,「ステージG3以降では,腎代替療法に関する情報提供が必要である.詳細な情報提供は,腎障害が進行性であり,eGFRが15〜29mL/分/1.73m2の時期に行う事を推奨している」と記載されている(日本腎臓学会,2015).すなわち,CKDステージG4の段階で詳細な療法選択の機会を設けるべきであり,末期腎不全(以下,ESKDと略す)の症状が強く現れ,尿毒症や体液過剰による身体的問題を抱えている状態では,患者のレディネスは整っているとはいえず,療法選択の理解や意思決定支援の弊害となると考えられる.
CKD患者のフレイルの恐れや緊急導入のリスク,適切な時期に行う効果的な療法選択の必要性からも,腎代替療法の準備期間を考慮した支援介入を計画的に行っていくことは非常に重要な課題である.
A病院においてCKD保存期指導は,糖尿病透析予防算定要件を満たす糖尿病患者に限って行われている背景があった.日本透析医学会の2015年末調査結果によれば,導入患者の原疾患の第1位は糖尿病性腎症で43.7%(前年の割合より0.2ポイント増加),第2位が慢性糸球体腎炎で16.9%(0.9ポイント減少),第3位が腎硬化症で14.2%(変動なし),第4位が不明で12.2%(0.9ポイント増加)であった(日本透析医学会統計調査委員会,2015).これは,導入患者の半数が糖尿病以外を原疾患にしていることを示している.A病院において糖尿病患者に限った保存期指導を行っていることは,非糖尿病患者は,保存期指導から漏れてその機会を得ぬままに,導入に至っていることが推測された.
そこで,全CKD患者が指導機会を得られるように,「個別腎臓教室」の運用を開始し,糖尿病性腎症以外のCKD患者への指導を行うシステムを構築した.
「個別腎臓教室」の支援介入の効用を検証すべく,新規透析導入患者に注目し,透析導入期調査を行った.対象となる患者の「個別腎臓教室」参加の有無から,保存期指導介入群と非介入群に分け,調査項目として,導入時バスキュラーアクセスの有無,導入期に要した入院期間,導入前後での社会的役割の変化から,その効用を検証したので報告する.
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