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Ⅰ.はじめに
わが国の認知症高齢者の現状について,厚生労働省老健局は,2010年の全国65歳以上の高齢者の認知症有病率推定値15%,認知症有病者数439万人と推計し公表した1).そのうち,介護保険制度を利用している認知症高齢者(日常生活自立度Ⅱ以上)について,2010年は約280万人(65歳以上人口対比9.5%)で,2020年には410万人(65歳以上人口対比11.3%),2025年には470万人(65歳以上人口対比12.8%)になると予測している2).
また,わが国の慢性透析療法の現況2013年末調査3)によると,わが国の透析導入平均年齢は毎年高くなり,2013年末の透析導入時平均年齢は68.68歳と年々高齢化している.認知症については,日本透析医学会による調査が2009年末,2010年末に行われ,2010年末調査4)によると,透析人口全体で“認知症あり”の患者は9.9%,施設血液透析患者の認知症合併率は10.3%,認知症新規発症割合は3.32%であった.さらに,認知症有病率,認知症新規発症割合は60歳を超えると増加することが明らかにされている.透析導入時の平均年齢が年々高齢化していること,認知症高齢者が今後も増加すると予測されること,認知症有病率と認知症新規発症割合が60歳を超えると増加すること,以上の現状から考えると,今後,認知症高齢透析患者も増加していくことが推測される.
このようなわが国の認知症高齢透析患者の現状において,外来血液透析施設であるAクリニックの患者平均は年齢68.8歳であり,認知症高齢患者も通院透析を継続している.そのなかには,認知症発症後に透析導入が必要となり,家族の代理意思決定により血液透析導入となった患者がいる.認知症高齢者が末期腎不全となったとき,家族は判断できない患者に代わり透析導入か非導入かを意思決定する必要がある.透析導入の意思決定をした場合は,多くの患者は生涯を通じて治療を継続することとなり,家族は,患者の身体的,精神的,社会的,介護,透析,ADL,QOLなど,さまざまな問題に向き合っていかなければならない.また透析非導入の意思決定をした場合は,看取りと向き合わなくてはならない.
終末期医療に関心が向けられるなか,家族による代理意思決定は,救急医療,延命治療,臓器移植,尊厳死など,さまざまな場面で必要となる.日本透析医学会5)も,「維持血液透析の開始と継続に関する意思決定プロセスについての提言」を示した.先行研究では,重度認知症高齢者の胃瘻造設の代理意思決定や看取りを選択した家族の意思決定に関する研究6〜8)はあるが,認知症高齢患者の透析導入に関する代理意思決定の報告はほとんど見当たらなかった.
そこで,脳血管性認知症高齢患者の血液透析非導入・導入に関する家族の代理意思決定の体験を明らかにすることを目的とした本研究に取り組んだ.この研究結果は,今後,家族が代理意思決定を行う過程での家族の理解や,家族を支援する看護師の役割に貢献できると考える.
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