Ⅱ．21世紀の人間と科学

Human Being and Science in Twenty First Century

はじめに

　日本では，科学や科学技術というと嫌な顔する方が多いのですが，私は日本人ほど科学技術の恩恵に浴している民族は少ないのではないかと考えています．有名な文科系の先生が講演の席で，「科学技術などができ上がったので，日本人の生活がすっかりだめになってしまった」というようなことを言うので，私が「そんなに科学技術がお嫌いなら，身体に着けている科学技術の製品を全部お外しください」と申し上げました．いうまでもなく，壇上で一糸纏わぬ丸裸になるということがすぐおわかりになるでしょう．それぐらい日本人は科学技術の世話になっているのです．

　また，日本はいろんなものを輸入しないと生活が成り立たない国です．日本全土で農作物を作ったとしても4,000万人しか養えないということで，江戸時代にはそれで自然に人口が抑えられていたという話です．いずれにしても，それ以上の人間が今住んでいるわけですから，昔よりは生産能率が上がったとしても，食料の半分以上を外国から輸入しなければいけない．着ている衣料品も羊の毛や綿から，あるいは最近は合成繊維の原料である石油まで，ほとんど全部輸入で賄っています．

　石油は秋田県で0.3％出ているそうですが，99.7％が輸入ですから，全面輸入であるといってもおかしくないわけです．鉄鉱石しかり，石炭まで，全部の鉱山が閉山するという話があります．

　たくさんの物を輸入していますが，それを賄っているのはほとんど工業製品です．美術的なデザインのものが売れるとかいうこともありますが，ほとんどが工業製品によって国の経済が賄われているということになるわけです．どっぷり科学技術の恩恵に浴しているわけですが，その割には科学技術はさっぱり感謝されないのです．何か害毒を流しているという声があったりして，まったく現実認識が足りない，ということで不思議に思うわけです．

　もちろん科学技術がいろいろな害毒を流したこともありますが，それは心ない人たちの行為でして，科学技術自体は決してそういうものではないということを最初に申し上げておきたいと思います．