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伝統的に政治理論で前提とされてきたのは、「自立した、他者に依存しない個人」であった。一例を挙げれば、社会契約論にしても、一人ひとりの個人が自由であるためには、伝統的な社会の身分制的な拘束はもちろん、多様な社会のしがらみから解放されることが必要であるとされた。代表的なのは、ジャン=ジャック・ルソーであろう。ルソーは『人間不平等起源論』において、社会に存在する不平等がなぜ生じたかを探った。彼によれば、自然状態において、本来、人は自己保存の本能と、他者の痛みに対する本能的な憐みの感情を持つのみで、それ以上には人と人とを結びつけるものは存在しなかった。ところが、いつしか人々の間に相互依存の関係が生まれた。いったんこの関係が生まれると、人と人の欲望が結びつき、個人はそこから抜け出せなくなる。やがて所有権が打ち立てられ、支配と服従の連鎖が社会を覆い、人はその鉄鎖の下で従属した。このようなルソーのロジックからすれば、他者に依存することは従属と結びつくがゆえに、端的に悪であった。
フランス革命中の1791年、ル・シャプリエ法が成立したのも、このような論理の延長線上にあった。封建社会における同業組合(ギルド)を廃止するばかりか、労働者の団結を禁止する法律として悪名高いが、伝統的な身分制はもちろん、特定の利害を共有する関係者が結びつくことを恐れたものであった。人が人に依存すれば、自由な判断ができなくなる。やがて従属関係に陥り、社会から自由が失われるだろう。必要なのはむしろ、他者に依存することなく、自立し、自分の意思によってのみ判断できる主体だけだ。そのような主体が社会契約の当事者になり、新たな共和国の市民となる。それを阻む一切のしがらみや依存関係はすべて破壊しなければならない。フランス革命において女性の市民権が否定されたのも、夫に従属して、自立的な判断の主体ではないという理由によってであった。
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