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はじめに
2色型色覚のシミュレーションアルゴリズムが開発されたことをきっかけに1),2001(平成13)年から著者らは色覚異常の人の見え方を例示し,その困難に基づく具体的な対策を提案することで,色覚異常の人たちにも配慮のある暮らしやすい社会の実現を目指してきた.医師であり1型2色覚という強度色覚異常の著者であっても,その困難を人に知ってもらい適切な配慮を訴えることは難しかったが,色覚異常の人の見え方を例示できるようになったことは革命的な出来事であった.
1916(大正5)年に陸軍軍医であった石原忍が徴兵検査用色神検査表を作成して以来,色覚異常に関しては,異常と特定された人たちの進学や就労に制限を設けることで社会的に対応されてきた2).近年になって色覚異常に関する不当な差別が問題視され,進学や就労に関連する欠格条項の見直しなど,さまざまな規制緩和が行われるようになり,ついに2002(平成14)年を最後に世界でも珍しい学校における一斉色覚検査も事実上廃止された.根拠が明確でない社会的差別はなくなったが,色覚異常の人たちにとってこの世は生活しやすくなったのであろうか.
「赤と緑の信号機が区別できないから運転免許証は取得できない」という都市伝説があるが,実際の交通信号機の青信号は色覚異常の人たちにも赤や黄色と区別できるように色の調整がされており,このようなバリアフリーな配慮は以前から実現可能であった.注目すべきことは,色覚異常の人に配慮することによって,一般の人たちが使いづらくなるわけではないことである.特定の人たちへの配慮はバリアフリーかもしれないが,結果として誰にでも使いやすいものになるのならば,それはユニバーサルデザインである.われわれは,色覚には多様性が存在することを啓発しながら,色のユニバーサルデザイン,すなわちカラーユニバーサルデザイン(color universal design;CUD)という概念を普及する活動を行っている.
2016年の4月より学校での色覚検査が希望者に対して再開できるようにする旨,文部科学省より通知があったが,通知には色覚検査の再開だけではなく,色覚異常の児童生徒へさまざまな配慮や指導を行うことが記されている.しかしながらこのような配慮や指導に関する具体的方策に関しては情報が少ない.適切な事後措置なしの検査再開は,“異常者”を特定し,彼らの不安と恐怖を煽り,努力して生きていくことを再び強いることになりかねない.本稿では,色覚の多様性を前提とした社会の実現を目指し,色覚異常の児童生徒にかかる学校での適切な配慮と指導のあり方について述べる.
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