◆特集 アフォーダンスと臨床
アフォーダンスと失行
小嶋 知幸
1
1江戸川病院リハビリテーション科
pp.538-541
発行日 2000年12月25日
Published Date 2000/12/25
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アフォーダンスと失行論
Gibsonによって提唱されたアフォーダンスという概念は,世界もしくは環境を,その中に生きる生体との関連で捉えようとする考え方である.それは,Descartesの心身二元論にまで遡る間接的認識論からのパラダイムの転換と解釈することができる.間接的認識論とは,一言で言うと,「世界の意味とは,それ自体では意味を持たない物理的刺激が,感覚器官を通して精神もしくは脳に受容され処理された結果生じたものである」とする考え方であり,19世紀以降の心理学から情報処理モデル理論に至る認知科学の分野における考え方の基礎となってきた.それに対してGibsonの考え方では,環境(世界)は単なる物理的な客体ではなく,生体が生存するための必要性に応じた意味や価値を持ったものと解釈され,しかもその意味や価値とは,生体が自分の手で作り上げるものではなく,環境の側から提供(afford)されるものと考える.
ところで,大脳損傷に起因する行為障害である失行については,Liepmann以来現在に至るまでさまざまな定義・分類が試みられているが,その中で行為を,客体を伴うか伴わないかという観点から,他動詞的動作と自動詞的動作に大きく二分する考え方がある.この二分法において,前者すなわち他動詞的動作は,アフォーダンスという概念を導入することにより,視点を動作主の側から客体の側に移すことが可能となり,失行論,とりわけ道具の使用障害の解釈に新たな地平が開かれるのではないか,と期待される.
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