◆特集 アフォーダンスと臨床
靴下のアフォーダンス—靴下履きの発達と組織化
宮本 英美
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1東京大学大学院情報学環
pp.525-528
発行日 2000年12月25日
Published Date 2000/12/25
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イントロダクション
生態心理学において,アフォーダンスは「環境に実在する行為の潜在的可能性」と定義される.平らな地面は歩くことをアフォードし,接近する自動車は回避をアフォードするというように,物や事象は有機体が行為を制御するための利用可能な情報を潜在している.あるアフォーダンスは,特定の行為にとってのリソースとして有機体の運動を制約している.しかし,それは,有機体が特定の刺激入力に対して機械的な反応を返すということではなく,一定の持続を持ったタスクにおいて,利用可能な種類のアフォーダンスを選択し,それらが許容する限りの運動を繰り返し試行することである.
従って,アフォーダンスは「通り抜けられる隙間」のようにローカルな場所・物・事象に発見されるが,あるアフォーダンスに特定の軌跡・速度・タイミングなどをもつ一定の運動パターンが常に適用されるのではない.知覚と行為のシステムは,あるタスクのゴールを達成するために必要なアフォーダンスとそれを利用する運動のサイクルが入れ子構造を成すプロセスである.歩きながら腕時計を見て時間を確認するためには,文字盤が正しい向きで見えるように腕を目の前に動かさなくてはならない.しかし,この主要な動作以外にも,頭部を時計を注視できる向きに変えたり,頭部や腕の位置が大きくぶれないように足取りが調節されるなどの下位の動作が協調することによって,「時計を見る」という一つの行為が達成されているのである.
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