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はじめに
リハビリテーション(以下,リハ)治療中の患者の院内感染は大きな問題である.今でも心に残っている症例を紹介する.これは,第48回日本リハビリテーション医学会学術集会にて,国立国際医療研究センター病院(以下,当院)リハ科の早乙女が,多剤耐性緑膿菌(multiple-drug resistant pseudomonas aeruginosa:MDRP)のためリハビリ転院に難渋した一症例として報告した症例である.
中年男性で,20XX年8月9日,高所からの転落により,頸椎前方脱臼による不全脊髄損傷+喉頭外傷+腰椎多発骨折+骨盤骨折をきたした.気管切開が施行され,急性期リハとして理学・作業・言語聴覚療法(PT・OT・ST)開始となった.当院主科と当院リハ科の合同カンファレンスで,6週間の安静の後,回復期リハへの転院が当初の方針となった.しかし,8月29日,痰からメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が検出され転院交渉は難航した.さらに,10月12日,痰からMDRPが検出され,個室移動を余儀なくされた.個室料金は請求しなかったものの,こうなった事態について,家族より厳しい抗議があるようになった.11月には,リハを行いつつ,家族との面談を反復した.
一方で,菌の管理のため,気管切開孔閉鎖を目指したが達せず,転院交渉は難航し続けた.11月17日にはメタロβラクタマーゼ産生菌が検出され,耳慣れない菌の検出に転院交渉はさらに困難となった.そのうちに,当院での3カ月を越えるリハの甲斐あって,12月には歩行およびADLが自立に近づき,自宅退院方針を検討しはじめた.しかし,発症当初に「転院しての専門リハが必要」と説明していたために,家族は難色を示した.また,退院後の外来リハの受け入れが,感染症のため断られるかもしれないというのも退院拒否理由であった.引き続き家族との面談を反復し,当院からの外泊訓練を経て,外来リハ先も確保して翌年1月5日退院に至った.その時点では気管切開孔残存していたが,退院後数カ月で閉鎖を達成した.
このような症例はおそらく,どなたもご経験があることと思う.かつてMRSAが出現した際には,MRSAの院内感染による死亡が大きな問題になったが,死亡に至らなくても,院内感染はリハの進行にも大きなデメリットをもたらす.リハ科にとっての院内感染は,第1に患者の訓練場所の制限など訓練→回復の阻害要因になる.第2に転院や施設入所,在宅でのサービス利用に際しての阻害要因となる.第3にリハ病院でアウトブレイクを起こすと費用面・評判面でも痛手となる.
以上の理由により,医療職として,患者のためにならない院内感染を防止することは,リハ科医師にとっては重要な責務である.本編では,院内感染対策の規則,知っておきたい感染症,リハ場面での院内感染対策の実際について述べる.
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