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はじめに
世界の人口が高齢化している.なかでもそのスピードにおいて,我が国は高齢化の先頭を走っている.総務省が発表した2010年9月15日現在の推計人口によると,65歳以上の人口は前年より46万人多い2944万人となり,総人口に占める割合は23.1%と過去最高を更新した.近々,この数字が30%を超えるとされ,2050年には40%,つまり5人に2人が高齢者という社会が訪れるとの推定結果もある.一方,日常的に介護を必要としないで自立した生活ができる生存期間を健康寿命というが,寿命と健康寿命との差が拡大しているとする研究報告も見られる.すなわち,寿命の伸びに健康寿命の伸びが追いつかず,したがって,介護などの依存が必要な状態が長くなっているとするものである.これは由々しき問題である.多少の病気は仕方がないにしても,介護状態や寝たきり状態などにはなるべく陥らずに寿命を全うしたいと願う人は多い.いわゆる,サクセスフルエイジングの達成である.
このような,生活の質を重視する医療医学が求められる背景の中,運動器疾患対策への期待がこれまで以上に高まってきている.ひとつには,国民生活基礎調査の結果にも示されているとおり,腰痛,肩こり,関節痛といった運動器の痛みが,国民の症状の上位を占めていることがある.運動器の症状は,国民病といってもよいであろう.さらには,要支援・要介護の原因としての運動器障害である.とくに関節疾患や転倒・骨折がその原因としてクローズアップされている.実際,運動器の機能向上は,介護予防事業の中で大きな柱として位置付けられている.
しかしながら,運動器障害の有病率などの基礎疫学的指標,運動器障害が将来の要介護や日常生活動作(ADL)低下に及ぼす影響やインパクトに関する推定,運動器の機能向上に資する介入の効果等などに関して,我が国に充分なエビデンスがあるかといえば,いささか心もとないのが現状である.とくにpopulation-basedな知見の集積が重要である.
本稿では,シンポジウム講演時の内容に沿って,1.地域在住高齢者の運動器障害,歩行障害の有病率,2.運動器障害と将来の要介護・ADL低下との関連,3.運動器の機能向上に向けた介入のエビデンス,の3項目に関して記述する.
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