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ロコモティブシンドローム対策の医療費抑制効果を直接捉えるのは不可能
骨・関節・筋肉など移動に関わる臓器,運動器(locomotive organs)が加齢と共に変性・脆弱化しても直接生命を脅かすことはないが,閉じこもりや易転倒性を介して生活の質を低下させ,要介護状態を招きがちとなる.身体機能の低下により介護施設に入所している高齢者一人ひとりの日常生活動作について達せられない項目数を調査した報告では,関節症罹患者に比べて脳血管疾患罹患者では日常生活で達せられない項目数は2.5倍も多くなるが,入所者数に占める罹患者数の割合を見ると関節症罹患者数は脳血管疾患罹患者数の6倍も多い.そこで,疾患罹患者数と達せられない日常生活動作項目数との積の視点で見ると,関節症は脳血管疾患の2倍以上も積が多くなり,運動器疾患が高齢者を軽度であるが広く要介護状態にしている実態が見られる.同様の状況は2010年度の国民生活基礎調査でも明らかにされ,国内の要介護者について年齢群別の要介護者数と要介護の原因疾患の割合との積でみると脳血管疾患が全要介護者の約21.5%を占めているのに対して関節症・転倒骨折・衰弱など運動器の加齢疾患・加齢症状は34.8%も占めていた.特に,後期高齢期の要介護高齢者では脳血管疾患に比べて運動器の変性や脆弱化に由来する身体機能の低下の割合が約4倍と多くなり,85歳以上の高齢者では要介護原因として脳血管疾患の占める割合よりも転倒骨折の占める割合の方が多くなっている.平均寿命が男性79.44歳,女性85.90歳と後期高齢期まで長命を保つ人の割合が増加している2011年度に3.1%も増加した医療費を抑制するために,また高齢者の生活機能を維持して生活の質を高く保つために,高齢者の運動器変性・疾患への対応,即ちロコモティブシンドローム対策は必須の重要課題と考える1).
身体機能が低下するパターンには脳血管疾患のように発病後の麻痺により急峻に身体機能を低下させるといった分かり易い経過をたどる脳卒中モデルがある.一方,変形性膝関節症のように身体機能が緩徐に低下し,気付いた時には閉じこもり状態になっていたり,転び易くなっているといった分かりにくい経過で身体機能を徐々に低下させる廃用症候群モデルもある.加齢に伴う運動器の変性疾患の多くは廃用症候群モデルの経過をたどって身体機能を低下させることから,日本整形外科学会では潜行する身体機能の低下を個人個人の日常行為の中で早く気付いて早期の対策を取れるようにとロコモティブシンドロームの概念を確立し,評価方法としてロコモティブシンドローム・チェック,対応方法としてロコモティブシンドローム・トレーニングを提唱し,それらを全国に普及啓発している.このように病前状態について評価・対応することを目的として提唱されている概念,ロコモティブシンドロームについては該当者がロコモティブシンドロームという病名で医療機関において医療保険により診断・治療される患者になるとは限らない.従って,ロコモティブシンドローム該当者について直接的な医療費を算出して医療経済的に捉えることは不可能である.
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