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はじめに
心不全とは低心機能のために末梢組織に十分な酸素が供給されない病態で,息切れや疲労感を主症状とする臨床的な症候群であり,あらゆる心疾患の終末像である.また臨床現場で最もよく遭遇する疾患でもある.心不全は心筋梗塞や心筋症などに代表される心筋の傷害により主に左室の収縮力が減退したものと表される.収縮能の落ちた患者の多くは拡張能も落ちており,これは左室コンプライアンス低下による充満状態の異常をきたす.これにより運動時の心拍出量の減少,左室充満圧の上昇,代償的な左室容量負荷や肺動脈圧や中心静脈圧の上昇といった循環動態異常を示す.
このような循環動態の異常は,二次的に組織や臓器の変化を引き起こす.まず,骨格筋の代謝を狂わせ組織生化学的性状を変化させる.また血管拡張能が低下するほか,腎機能障害を招来しナトリウムと水分の体内貯留を引き起こす.この結果として患者は疲労感と息切れとともに運動耐容能が低下するのである.かつては,心臓リハビリテーション(以下,心臓リハ)領域の中で低心機能患者は,運動リスクが高いということで適応疾患から除外されていた.しかし,1980年代には低心機能患者に運動トレーニングを安全に実施でき,しかもトレーニング後明らかな運動耐容能の増加が見られたとする報告が相次いだ1,2).
欧米では1990年以降多くの研究により慢性心不全の運動療法の効果が確認されてきており,運動耐容能,自覚症状,QOL(quality of life),生命予後を改善することが明らかになっている.心不全に対する運動トレーニングの効果を検証するために,無作為コントロール研究によるメタ分析の結果も報告されており,生存率の向上と再入院率の減少が確認された3).
わが国では2006年4月から,心不全が保険診療上リハ適用疾患として認められるようになった.インターベンションや補助循環療法,各種薬物治療など循環器系疾患の急性期治療の進歩を受けて,軽症患者の早期退院が実現した一方で,重症患者の生存が可能となり,特に合併疾患を持った高齢心不全患者が増加しているのが特徴である.
しかし,わが国で心不全に対する運動療法はまだ緒についたばかりで,普及にはまだ時間を要すると思われる.
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