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はじめに
急性灰白髄炎(ポリオ)は脳幹や脊髄前角細胞がポリオウイルスにより侵される疾患であり,わが国では1940年代の終わり頃から1960年代初めにかけて大流行した.不顕性感染が多いため,全感染者の4~8%に非特異的症状が出現し,同じく全感染者の1~2%に四肢・体幹の非対称性の弛緩性運動麻痺が生じるといわれる.運動麻痺の発症者は特に乳幼児に多く脊髄性小児麻痺といわれる所以でもある.運動麻痺は下肢に発症する例が多く,発症直後が最も重篤で,しばらくするとある程度まで回復し,その後比較的安定した状態が数十年続く.表1はポリオ罹患者に見られることの多い所見だが,これらに加え1980年代になり数十年間安定していたポリオ罹患者に疲労・疼痛・耐久性低下などを伴う新たな筋力低下を特徴とする遅発性二次障害が現れることが問題となり,ポリオ後症候群(PPS)と名付けられた.わが国でも大流行後40~50年が経過しており,PPSの発症が問題となっている.また,たとえPPSを発症していなくても,加齢・変形の進行・過用などの影響でこれまでよりも日常生活動作(ADL)能力が低下していることが多い.
わが国では1961年より経口ポリオワクチンが導入されて以来,新規ポリオの発症はワクチン由来麻痺症例が散見されるのみにまで減少し,1980年を最後に野生株によるポリオ症例は報告されていない.国全体の感染対策が奉公した結果であるが,昨今は日常診療において遭遇する機会が減少したことよりポリオ罹患者の診療経験を有する医療者も減少し,ポリオ罹患者が十分な診療を受けることのできる医療機関が不足している問題もある.
こうしたことから産業医科大学では2001年よりポリオ罹患者を対象とした健康相談会を開催しており,関節可動域・筋力・筋萎縮・肺機能・歩行能力やADL・活動度・生活満足度・健康関連QOL(quality of life)などを経時的に評価している.この相談会では義肢装具士による装具の紹介や相談も行っている.これまでの経験からポリオ罹患者は下肢装具に対して満足していることが少なく,その理由としてまず装具の重量が挙げられる.重度の下肢麻痺例では長下肢装具を必要とするが,一般的な両側金属支柱付き長下肢装具の重量は,脳卒中などの痙性麻痺では影響が少ないものの弛緩性麻痺の場合は歩行能力に大きく影響してくるのではないだろうか.次に,小児期からの麻痺による変形や骨形成不全・脚長差などは装具の適合を難しくし装具装着による不快感の原因となるとともに,歩行時の効率を悪化させる原因にもなる.また,ポリオ罹患者には仕事をはじめさまざまな活動に積極的に取り組む者が多く,装具装着時の外観も大きな要因となる.こうした重量・適合・外観の問題からポリオ罹患者の下肢装具に対する満足度が低く,これらの要因を改善すればより満足度が高く,歩行効率に優れた下肢装具となるのではないかと考え新たな装具の作製に取り組んできた.
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