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はじめに—障害者福祉就労の現状
15,295円。
障害者がこの国の福祉就労現場で働いて月に手にすることができる全国平均工賃額(就労継続支援B型)である(図1)1)。その数約20万人。この状況は,もうかれこれ半世紀におよんでいる。全国に1万を超えるその就労現場では,「できない」が蔓延し「あきらめ」が充満している。障害者にできることは軽作業と決めつけられ,そこは改善と進化といったことから遠い場所となっている。後述するが,漫然としていてもそこに障害者さえ居続ければ,事業所運営は成り立つというシステムは,自助努力を要さない。報酬はこれまで障害者に支払う工賃の多寡にかかわらずほぼ一定であり,低工賃と高工賃の事業者の差は障害の軽重という正当な理由以外,主にそのマインド,ポリシー,心意気というなんとも不確かなものに委ねられているのが実態だ。デイサービス代わりとしか言えないレベルの仕事に従事する障害者に自立して生活している意識は当然芽生えず,その態度は受身であり,その意識は生活全般の未自立にもつながるばかりか医療への過度の依存となっているとも言えよう。
障害者福祉行政において横たわるこの課題に対し,国としても「工賃倍増計画」をここ10年来各種展開するも,その成果は微増にとどまり,明確なその活路は見いだせていない状況である。
障害者が15,000円という低工賃しか得ていない実態に対し,そのコストは10倍近くとなっていることに私たちは緊張感を持つべきだ。就労支援事業所に通所することで事業者が手にする報酬は一日あたり約6,000円。障害者が皆勤の場合,約140,000円が事業者に入る仕組みとなっている。それだけの経費がかかりながら,本来の受益者たる障害者が事業者の1/10しか得られていないとしたら,いっそ年金として支給したほうが生活の向上に役立つのだとすら考える関係者は少なくない。さらにそこにとどまらず障害者自身の生活の保障にも経費が費やされる。工賃15,000円では到底生活はできず,年金はもとより生活保護が加わり,そのコストは彼らが得る工賃のもはや15倍を超えるものとなる。そのことが障害者自身の自立した生活の向上につながるのではあればまだしも,その保存的な生活の実態は甚だ物心両面ともに貧しいものだ。さらに自立がままならない要介護者としての障害者を家族として抱える世帯では容易にその全体が保護世帯となり,公的負担が増すばかりか,働くことのできる家族までもが就労できないという労働人口の減にもつながっている。また社会参加の乏しさは医療への依存を増し医療費を膨張させ,障害高齢者となった状況においては要介護度が高い傾向を呈し介護保険においてもそのコスト増を引き起こすこととなる。障害者の低工賃はさまざまに負の連鎖を引き起こし,静かに,そして着実にこの国の体力を消耗させていく。
福祉就労の種別には就労継続支援A型もあり,約6万人が利用している。このサービスは雇用契約を結び,地域の法定最低賃金を得るという一般の働き方に近いものである。しかしながら,昨今話題となっている大量解雇問題に見られるように売上のない状態で障害者を囲い込み,得られる報酬を当てにした経営は,B型以上の賃金を得たとしても,働いているという実感に乏しい障害者は自立に遠く支援とは名ばかりの貧困ビジネスの側面が問題視されている。B型ともども事業者の自立度の低さがこの半世紀の間,漫然とこの状況を許してきたのだと思われる。企業における一般雇用と異なり,多額の社会的コストを投じられる事業者こそ,障害者に先んじてしっかり事業として自立することこそが費用対効果において重要であると言えよう。
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