Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
- 参考文献 Reference
はじめに
がん医療の進歩はめざましく,5年生存率は約57%と徐々に改善され1),以前のように「終末期の疾患」の代表ではなく,「慢性疾患」を有する患者として長期的な視座に立ち,治療と社会生活の両立を目指す患者も増加しつつある2).また,20〜64歳までの年間の全がん罹患者数は推計22.3万人3)であり,さらに超高齢社会のわが国において,高齢労働者が増加していくことを踏まえると,労働力の確保という点からも社会的にもがん患者の就労・復職は重要な課題である.しかし現状ではがん患者の就労・復職に対するサポートが十分であるとはいい難く,がん罹患労働者の30.5%は依願退職し,4.2%は解雇されているともいわれている4).
このような背景をもとに行政も,第2次がん対策推進基本計画で,がん患者が就労するうえでのニーズや課題を明らかにし,『就労可能で就労に対する意欲のあるがん患者が働ける仕組み』の検討・研究が必要とし取り組みを始めている5).
治療の現場という観点では,がん拠点病院に設置されるがん相談支援センターで相談員の就労相談対応を行政側から求められたり,いくつかの病院の取り組みとして産業カウンセラーや社会保険労務士を配置したりすることでがん患者が就労に関する悩みを相談しやすくなる環境整備が進みつつある.しかしながら病院内での就労者への介入に関してガイドラインなどがなく,個々の支援センター単位で独自の対応策を考えられており,一様に均質なサービスとして就労サポートが受けやすい状況にあるとはいい難い.また,医療ソーシャルワーカーでこの問題に注目しつつある者もおり,勉強会や情報共有を行うことで個々のスキルを高めたうえで,一部の病院では患者支援を行う準備を始めている状況にある.
職場という観点では,企業に求められるがん患者への支援策について,厚生労働省がん臨床研究事業 高橋都研究班(2010〜2012年)「働くがん患者と家族に向けた包括的就業支援システムの構築に関する研究」において『企業のための<がん就労者>支援マニュアル』が示されている6).本マニュアルは,① 上司や同僚,② 人事労務担当者,③ 事業者,という3者の立場で職場内にがんを発症した労働者が存在するとき,サポートできる内容を無理のない範囲でマニュアル内から探しだし本人に最も適したものを実施するためのヒント集として作成されている.
職場においては医療と職場の両方の専門家という立場にある産業医に対して職場支援のキーパーソンとしての役割期待が膨らみつつある.本稿では,筆頭著者が産業医という職場の立場から,「就労可能」という判断において職場側からの視点から記載するとともに,働くがん患者を支援するための医療-職場間の連携について言及するものとする.
Copyright © 2014, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.