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はじめに:神経因性下部尿路機能障害における仙骨神経刺激療法の位置づけ
本邦の泌尿器科分野における仙骨神経刺激療法(sacral neuromodulation:SNM)は,2017年9月に難治性過活動膀胱に対して認可されており,実施にあたっての適正使用基準(2017年1月5日付)が日本排尿機能学会のホームページからダウンロード可能である15).適正使用基準によれば,SNM実施時には,片側S3の仙骨孔へリードの挿入を行い,体外的に1〜2週間の刺激を行う試験刺激をまず行う15).試験刺激で,目標とする過活動膀胱症状が改善(50%以上の症状改善などの指標が用いられる)した場合に,神経刺激装置の植え込みが行われる15).なお,諸外国では,非閉塞性の慢性尿閉に対しても選択される治療法であるが,本邦では難治性過活動膀胱のみに適応がある.
本邦での適応である難治性過活動膀胱は,原則的に難治性「特発性」過活動膀胱,すなわち明確な神経疾患などによらない原因不明の過活動膀胱(特発性過活動膀胱)のうち行動療法や薬物療法に抵抗性の難治例が想定されている11).2022年に発刊された過活動膀胱診療ガイドライン[第3版]11)において,SNMは,難治性過活動膀胱に対して膀胱鏡下A型ボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法と並び,強く推奨される標準的治療として位置づけられている.一方,明らかな神経疾患に伴う下部尿路機能障害である神経因性膀胱〔近年では神経因性下部尿路機能障害(neurogenic lower urinary tract dysfunction:NLUTDが正式名称である)〕かつその難治例に対するSNMは,オフラベル・ユーズとみなされる場合がある.実際,本邦からは1996年のIshigookaら5)の報告以降,NLUTDに関するまとまった報告はない.難治性NLUTDに対するSNMは,最近の系統的レビューを含めて判断する限り,限定的な施設で患者選択を厳密に行ったうえで実施されている治療であり,難治性過活動膀胱に対するような標準的治療とはいえない.
難治性過活動膀胱の定義としては,各国で細かな違いはあるものの,「行動療法・薬物療法を少なくとも8〜12週程度実施しても患者の満足が得られない場合」というのが一応のコンセンサスとなっており,SNMはこのような患者に対して適応となる10).一方,難治性NLUTDという場合の「難治性」に関する国際的なコンセンサスは明確ではない.さらに,NLUTDに対するSNMの報告には,頻尿・尿意切迫感や切迫性尿失禁のほかに尿閉に対する治療成績も含まれている点に注意が必要である.なお,NLUTDの原因となる神経疾患は多岐にわたるが,疾患ごとの治療成績は明確ではない.
以上のことから,難治性過活動膀胱においては標準的治療としての位置づけが与えられているSNMとは異なり,NLUTDにおけるSNMの位置づけは明確とはいえない.2018年時点での国際禁制学会のSNMに関するbest practice statement3)では,NLUTDに対するSNMはオフラベル・ユーズであり,「SNM is an option for symptom control in patients with NLUTD who are at low risk of upper urinary tract deterioration(Level of evidence:Ⅲ, Grade of recommendation:C)」となっている.なお,このstatementの解説文中では,脊髄障害によるNLUTDに対するSNMは,不完全型かつAmerican Spinal Injury Association(ASIA)Impairment Scale DあるいはE程度で膀胱充満知覚が認められる患者に限定すべきであるとされている.一方,多発性硬化症によるNLUTDに関しては,急速進行型への実施は勧められず,少なくとも6〜12カ月以上安定した病状の患者を選択すべきであるとされている.また,NLUTDに対してSNMを実施する場合には,試験刺激期間を長くして有効性の評価を行うことが妥当であろうとしている.
SNMの機器は本邦でもMRI対応機種が使用可能となり,海外では再充電可能な小型の機種も使用可能となりつつある17).再充電型の機器は,2〜3週ごとの再充電に付随する治療コンプライアンスを維持し得る患者が対象となるが,機器が小型なため車いす乗車が必要なNLUTD患者では従来の機器よりも有利な可能性がある17).また,難治性過活動膀胱に比べて,NLUTDの患者では治療効果を得るための刺激電圧が高い(0.95V vs. 3.6V)ことが知られており,バッテリーの消耗による機器の交換頻度の観点からは,再充電型のほうが機器の寿命が長い可能性も期待される1,17).これらの機器の進歩に伴い,難治性NLUTDに対するSNMの位置づけがより明確となる可能性もあるので,今後の臨床研究の動向に注目する必要がある.
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