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術中脊髄モニタリング(intraoperative spinal cord monitoring:IOM)は主に脊柱側弯症の矯正術において脊髄障害を回避する目的で始まった.IOMは電気生理学的手法と非電気生理学的手法に大別され,非電気生理学的手法は1973年にVauzelleら21)によって報告されたwake up testが挙げられる.この方法は脊髄に障害が加わる可能性のある手術操作を行った際に,麻酔深度を下げ患者を覚醒させ足部の自動運動を命じるものであるが,手技が煩雑で繰り返し施行することができないことや,脊髄に障害が加わったか否かを直ちに確認することができないことなどの問題点がある.したがって,本邦では限られた施設でのみこの手技が施行されているのが現状である.電気生理学的手法は種々の誘発電位を用いてIOMを行うものであり,刺激装置の発展や麻酔方法の進歩によりモニタリングが可能な神経機能が変遷してきた.1947年にDawson4)が健常人で末梢神経刺激後,頭皮上から誘発脳波を記録する体性感覚誘発電位(somatosensory evoked potential:SEP)を紹介しており,その後Perot15)が脊髄損傷例,Nashら13,14)が脊柱側弯例のIOMにSEPを用いているが,Nashらの論文に記載されているSEP波形は信号雑音比(SN比)が非常に悪く,誘発電位と雑音との判別が困難なものであった.一方,わが国でのIOMの開始は,1972年に玉置ら16),黒川8)が時を同じくして脊髄刺激による脊髄誘発電位(脊髄刺激・脊髄誘発電位,spinal cord stimulation spinal cord evoked potential:Sp-SCEP)を臨床応用したことに始まる.この方法は手術操作部位を挟んで硬膜外腔にカテーテル電極を中枢と末梢に挿入して,刺激と記録を行うものである(図 1〜4).Sp-SCEPは麻酔薬にも影響を受けにくく安定した大きな電位が記録できるという利点を有している.Sp-SCEPの刺激は持続時間0.2msの定電流刺激で最大上刺激とするが,刺激強度は10〜30 mAとなることが多い.刺激頻度は20〜50Hzで50〜100回の平均加算を行うため,刺激開始から数秒以内で波形が得られる.
この方法で監視できる脊髄の部位は,脊髄後側索と後索であり,運動路の評価はできない.脊柱変形の矯正の際に脊髄に一様な障害が加わった場合にはSp-SCEPで脊髄全体の機能を推定することは可能であるが,胸椎後縦靭帯骨化症の骨化病変の掘削術や脊髄髄内腫瘍の摘出術など,運動路に選択的な障害が生じる危険性がある場合には,Sp-SCEPには変化がないにもかかわらず運動障害が発生する危険性がある(図 5,6)1).このことは,主に脊髄後索を監視するSEPについても同様である(図 7)2).
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