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はじめに
脊髄髄内腫瘍の手術治療を積み重ねて約350例を経験してきたが,いまだにその多様性に驚かされ,術前診断に迷うことも多い.教科書や脊髄腫瘍の総説には,頻度の高い上衣腫,海綿状血管腫,血管芽腫が,境界明瞭な腫瘍の代表として挙げられ,また腫瘍境界が不明瞭である型として,星細胞腫,膠芽腫が記載されていることが多い.これらの定型例の画像と病理像が示され,摘出の技法や方針も単純化された記述がなされていることが多い.
実情は,画像をみて診断に迷うこともしばしばであり,術前の鑑別診断が当たらないことも多い.腫瘍の病理は,定型的な上記の4種ばかりでなく,約1/3は非定型的なもの,頻度の低いものの集まりであり,またときには画像上腫瘍のようにも見える肉芽性,炎症性の病変も加わって,臨床の病態は多彩である.
髄内腫瘍全体の頻度が高くない4)ので,教科書や総説では限られた症例経験に基づいて記述されることが多く,単純化された記述が再生産されている.実際の多様性があまり勘案されていないものが多い.
WHO中枢神経腫瘍分類は2016年に改訂された3).あらたに遺伝子情報が重視されるようになり,組織所見より優先的に分類の材料とすることが強調されている.遺伝子情報のプロファイリングが必要であると考えられる腫瘍(星細胞腫,上衣腫,髄芽腫,髄膜種など)と,当面,組織診断のみで診断される腫瘍に分け,組織情報に加えて,分子遺伝的情報,画像,臨床情報などを統合した診断(integrated diagnosis)とすることが打ち出された.病理学は組織形態学から大きく前進しようとしているといえる.髄内腫瘍でも,びまん性星細胞腫,退形成性星細胞腫,膠芽腫,毛様細胞性星細胞腫,diffuse midline glioma,孤立性線維性腫瘍などは遺伝子分類で確定される3).さらに遺伝子情報分類が進むにつれて,形態の特徴よりも本質的な病態,そして治療の反応などを予見する病理学になっていくのは間違いないと思われる.
本稿では,画像所見と手術所見,そして病理所見を並べて記述しながら,臨床の現場に即して実用的に記載する.
自験例の手術症例350例を典型例と非典型例に分けて表 1,2に示す.
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