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はじめに
脳腫瘍や未破裂脳動脈瘤の手術において,また最近では脊髄脊椎の術中モニタリングとしても,運動誘発電位(motor evoked potential:MEP)を記録することが一般的に行われている.脳腫瘍の手術では,開頭して腫瘍の近くにある中心前回の脳皮質,一次運動野(4野)を直接電気刺激して,位置に対応する四肢の筋から筋電図を記録する4,13).また,動脈瘤の手術など開頭が小さく4野から離れている場合には,経頭蓋的に高電圧で運動野を電極刺激し,記録は筋電図でとることが行われてきた2,9).この方法は脊髄脊椎外科の領域でも応用されて,神経外科の場合には脊髄腫瘍,ことに髄内腫瘍の手術に用いるのは普通であるし5,7,10),整形外科の場合には側弯症の矯正手術などで有用性が確立している3,12).
従来は,術中の振幅の減弱と術後の麻痺が連関しているとして,警報としての有用性を述べる報告が多い.一言でいうとわかりやすく,一見理屈の通りのよい論点である.しかし,350例ほどの髄内腫瘍を手術してきた筆者の実体験として,それは実情から離れている.髄内腫瘍がある患者の術中モニタリングにおいて,筋力低下が起こっていない筋であるにもかかわらず,ベースラインのMEPが記録できないことにしばしば遭遇する.まったく同じ技法,同じ麻酔で,未破裂動脈瘤の手術モニタリングをとるとほぼ100%記録できるのとは対照的である.
また,腫瘍の摘出中に電位が記録できないほど低下しても,覚醒直後より麻痺がほとんどないことも多く体験する.対照的に,未破裂動脈瘤手術においては,術中のクリップのかけ方によって脳動脈穿通枝が狭窄すると電位が低下し,かけ直して血流の開存を図ると回復するのが通常である.
これらの体験を踏まえて,consecutiveな58髄内腫瘍症例について集計して分析すると,モニタリング警告としての偽陽性(表 1)が非常に多いことがわかった.すなわち,術中にMEP低下があっても,その筋に麻痺をきたさないことが多かった.また,麻痺がない筋であるにもかかわらず,ベースラインのMEPそのものが術前から導出されないことも多かった7).
これらの事実は,髄内腫瘍手術におけるMEPモニタリングの意義の限界を示すだけでなく,さらに運動生理機能においてMEPが表している経路の役割についても再考を促すものである.
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