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はじめに
脊髄の血管障害の特殊性は,血管支配が脳のそれとはまったく異なることであり,このことが脊髄梗塞の特殊性,多様性に関連している.頸髄,胸髄,腰仙髄はそれぞれ異なる血管から支配を受ける.上部頸髄は椎骨動脈が頭蓋内に入ってから分岐する脊髄枝によって栄養され,中部頸髄から上部胸髄は頸椎横突起内を走行する椎骨動脈から血流を受ける.中部胸髄は大動脈から出る肋間動脈により,下部胸髄から仙髄は第8胸椎から第2腰椎レベルに起始部をもつ大前根動脈,別名Adamkiewicz動脈により主要な血流を受ける.前脊髄動脈はこれらの血管から入ってくる根動脈の吻合によって生じた前正中部を縦に走行する血管である(図 1).脊髄後面を後根に沿って入る後根動脈は,前根動脈に比して細く目立たない.根動脈から血流を受けた前脊髄動脈は直角に前正中裂を走行する中心動脈を出す.中心動脈は脊髄中心部を栄養する.灰白質は白質に比べて血管密度が高い.一方,脊髄表層から求心性に主として脊髄周囲の辺縁部白質を支配するmarginal vesselが認められる.脊髄の静脈は動脈と異なり後脊髄静脈優位であり,脊髄後面では太くて蛇行をし,主幹静脈相互にはきわめて豊富な吻合がある.髄内静脈は動脈に沿って走行するが,辺縁部の末梢静脈が優位である.脊髄梗塞では,このような血管支配の特殊性を考慮する必要がある.大動脈から椎骨動脈,肋間動脈,根動脈,前・後脊髄動脈,中心動脈,辺縁動脈に至るすべての部位で,さまざまな原因により血流障害が生じるので,その病態はきわめて多様性に富んでいる.本稿で取り上げた疾患の病理所見の詳細は自著『脊髄病理学』(三輪書店)に記載されているので,そちらも参考にしていただきたい1).
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