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はじめに—診察室と筋電図室
私のテーマは筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis;ALS)ということだが,患者はALSだとわかって受診するわけではない(もちろんALSの診断で紹介されたり,患者自身がALSを心配して受診することは多いが).したがって,何らかの運動感覚障害,すなわち筋力低下や感覚鈍麻・しびれ(もちろんALSでは感覚障害はないが,筋力低下を「しびれ」や「感覚がない」26)と表現する人もいる)を主訴として受診した患者において,どのようにして,ALSかあるいはそれ以外の鑑別疾患かを診断するかという問題設定となる.
そこではまず病歴聴取と神経診察が最も大事なステップとなる.それで診断を7〜8割方見当をつけて,残りの2〜3割を補助検査で診断することになる.補助検査として最も重要なのは,とりわけ運動感覚障害においては電気生理学的検査(筋電図検査)となる.ALS診断における筋電図検査の重要性もいうまでもない.したがって,私にとって,診察室と筋電図室はほとんどの場合ワンセットであって,
①外来診察室で診察したのち,自ら検査施行する筋電図室の枠を予約して,検査を行う.
②筋電図検査の枠(自院ないし外勤病院)に予約された患者を,その場で診察して,必要な検査を行う.
③最初から自院筋電図外来に他院から予約紹介された患者について,その場で診察して,必要な検査を行う.
以上のいずれかを行うことになる.ここであくまで診察>検査であって,特に②では,診察のみで明確に診断できて筋電図検査不要との結論となることもしばしばある(これを「エア筋電図」と呼んでいる).Parkinson病や大脳皮質基底核変性症(corticobasal degeneration;CBD)11)などのケースが典型的だが,それ以外のさまざまな疾患でも起こり得る.逆に,自ら診察することなくして筋電図検査を行うことは,(フォローの検査などを除けば)あり得ない.
診察で診断の見当をつけて,筋電図検査はあくまでそれを確認(confirm)することを第一の目的として行う.ALSにおいても,針筋電図は痛い検査なので,診断を確認するための最小限の被検筋数とすることを常に心がけている.診断基準を満たすまで延々と検査を行うことは,治験に入るためなどよほどの理由がない限り行わない.もちろん,予想と異なる検査結果が出た場合には,再度診察をやり直したり,別疾患を考えて検査計画を練り直したりすることもある.このように,筋電図室においても検査結果と神経診察は常に相互にリンクしている.これらを筋電図診断という観点から図式化したものを図 1に示した.病歴と神経診察が重要なのはもちろんだが,その中でも徒手筋力テスト(MMT)が針筋電図や神経伝導検査との関係が深いこと,針筋電図所見には時間経過が深く関係することなどが強調してある.また,診察所見から電気診断方略を立案するためには,各疾患の電気生理学的・臨床的特徴についての知識,神経筋解剖についての知識も必須である.
本稿では,このような観点で興味深い症例を3例提示したい.
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