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「心因性」という用語について
「心因性(psychogenic)」と同義語のように,「機能性(functional)」「非器質性(non-organic)」「医学的に説明困難な(medically unexplained)」という用語も用いられているが,それぞれの定義や異同はあまりにもあいまいで明確ではない5).最近では「心因性」を廃して「機能性」に統一しようという動きもあるが,すでにこの間,脳神経外科領域では深部脳刺激治療の対象を機能的疾患,その外科を機能(的)外科と呼んでおり,きわめて紛らわしく,賛成しがたい5).ここでは「心因性」をヒステリーか神経症に伴うものに限局して用いる.「ヒステリー」という用語は子宮由来であり,性差別の観点から避けられる傾向にあるが,現代ではヒステリーは身体面に現れる転換性障害と意識面に現れる解離性障害に分けられており,本稿では前者の意味で「ヒステリー」を用いる.実際,ヒステリーは単に一種の防御反応であり,「心因性」として済ませてよいかわからない面がある5).一方,「神経症」についても精神科領域ではさまざまな概念の変遷があり,「身体化障害」や主にそれと「心気症」を含む概念として「身体表現性障害」が唱えられているが,本論では,不安,抑うつ,心気などを呈する古典的な神経症を意味することにしたい.「心因性」にはこのほかに,精神病に伴うものや虚偽性障害(factitious disorder)・詐病(malingering)・Munchausen症候群なども含まれ得るが,これらは対象としない.
ヒステリーと神経症を厳密に区別するのは困難であり,臨床神経学の観点では必ずしもその必要はない.いずれにしても「心因性」を理解するには次の簡単なシェーマがわかりやすい(図 1)19).すなわち,情動変化がある場合に,正常の状況ではその神経情報が統合中枢に到達した後に運動野から運動指令が出る.これは通常の伝統的神経学の知識と診察により診断できる.しかし,心因性のエピソードの最中には,情動変化の神経情報が統合中枢を経ないで運動野に到達するために,通常の神経学では捉えられない「奇異な」行為や表現がなされる.
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