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はじめに
有史以来,坐骨神経痛が人類を悩ませてきたとの記述があるが,坐骨神経痛の主な原因が腰椎椎間板ヘルニアによる神経根の圧迫であることが明確に示されたのは20世紀になってからである19).1934年MixterとBarr13)が腰椎椎間板ヘルニアに対して椎弓切除によりヘルニア塊を摘出したとの報告が嚆矢となり,本症に対して手術が治療の主流となり,特にMayo Clinicの神経外科医Love8)の報告以来,椎弓間からのヘルニア摘出術が標準的術式となった.しかし,長期間の入院や術後感染,脊柱不安定性による遺残性腰痛,神経損傷や癒着による下肢しびれ・麻痺などの合併症が問題となった.
1964年にSmith17)がタンパク分解酵素であるキモパパインを椎間板内に注入することで髄核を融解して椎間板内圧を低下させ,ヘルニアによる神経根への圧迫を軽減することにより腰下肢痛を改善させる新たな手技を発表した.その後,本法の追試が相次ぎ,1982年に初めての化学的髄核融解術(chemonucleolysis:キモヌクレオライシス)の薬剤として米国食品医薬品局(Food and Drug Administration:FDA)に認可された.本法は,保存療法と手術療法の中間に位置する低侵襲な中間療法として注目され,欧米を中心に広く行われた4,18).タンパク分解酵素であるキモパパインは,髄核のプロテオグリカンのコアプロテインおよびリンクプロテインを分解することでその作用を発揮するが,コラーゲンを含めたタンパク全般をも分解するため,線維輪,さらには血管・神経など周囲組織への影響による投与後の激烈な腰痛,不安定性の出現,硬膜外腔への漏出や硬膜内への誤注入による麻痺などの重篤な神経障害,さらに異種タンパク質であることに起因するアナフィラキシーなど副作用の報告が相次ぎ,現在は販売が中止されている1,12,15).
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