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はじめに
2016年厚生労働省国民生活基礎調査によると,腰痛の有訴率は男性1位(91.8/1,000人),女性2位(111.5/1,000人)であった.米国では,腰痛に年間2,000億ドルの医療コストを使用し,腰痛の約40%は腰椎椎間板障害が原因で,患者数は年間570万人に上ることが報告されている.腰椎椎間板ヘルニアは20〜40歳の青壮年期男性に好発し,発症直後の急性期には安静時を含め,高度の腰下肢痛や神経障害を伴う.このため,社会経済的活動が大きく制限されることから,社会全体の経済的損失も大きい.一方で,腰椎椎間板ヘルニアは発症から6週間以内に約70%の患者は疼痛が軽減する.よって,治療の原則は保存療法であり,その方法は安静と非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の消炎鎮痛目的の投薬であるが5),国内外の多くのガイドラインでは強く推奨される投薬については記載がない6).また,温熱治療や牽引などの理学療法やマニピュレーションについても,推奨される治療はない.よって,現在本邦で実施されている保存的治療はいわゆる対症療法であり,変性椎間板が脊柱管あるいは椎間孔内外に膨隆,脱出して神経根や硬膜管を圧迫し,炎症を惹起するという本疾患の病態に対する根治的な治療とはいえない.
パパイヤの結晶性成分であるキモパパイン(chymopapain)が1940年代に抽出され,1956年には家兎を用いた実験でキモパパインを末梢静脈内に注入すると,硝子軟骨である耳介が分解することが報告された.その後,キモパパインがイヌ椎間板髄核を分解することが確認され,椎間板ヘルニアへの臨床応用が示唆された.1964年には腰椎椎間板ヘルニアへの臨床応用が報告され,chemonucleolysisと命名された.1982年にはより精製されたキモディアクチン®が開発され,キモパパインは北米,欧州などで広く普及した.論文報告されている腰椎椎間板ヘルニアに対するキモパパイン治療は良好とされているが7,8),一方でプロテオグリカンのみではなく,コラーゲンを含めた酵素基質特異性が広いために,終板や神経組織にも分解能を有すること,また,ヒト由来の酵素ではないことから全身性あるいは局所性の過敏性アレルギー反応がみられることという短所がある.本邦では臨床治験が実施されたが,残念ながら腰椎椎間板ヘルニア患者への使用は認容されていない.
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